954.「母親のような」寵愛

田中真斗は「礼儀知らず」という言葉を聞いて、顔色がさらに暗くなった。

以前、九条結衣が彼をそう評したことがあり、年長者である彼の面子を全く立てなかった。そして今、藤堂澄人が大勢の前で彼を叱りつけた。

この夫婦は、彼のことを全く眼中に入れていなかった。

何たる無礼か!

田中真斗の伏し目がちの瞳に、一筋の険しい光が走った。

今回の会議に九条結衣は同席しなかったが、田中真斗たち株主が何を言うか、おおよそ予想がついていた。

彼女はオフィスに座り、藤堂澄人が怒りに満ちた表情でオフィスに戻ってきたのを見て、眉を上げた。

「戻ってきたばかりなのに、誰かに腹を立てさせられたの?」

彼女は分かっていながらも笑いながら尋ねた。

彼女を見た途端、藤堂澄人の表情の輪郭が柔らかくなり、彼女の方へ歩み寄った。