955.終わりまで一緒にいると約束した

仕事に集中させることで、時間とともに何かを思い出すかもしれない。

藤堂澄人も今は怠ける時ではないことを知っていた。どうせ奥さんはここにいるし、どこにも行かないのだから。

今は、やるべきことが山積みだ。最も重要なのは、これら全ての背後で誰が糸を引いているのかということだ。

「仕事に行ってくるから、ここで待っていて」

「子供じゃないでしょう?仕事に付き添いが必要なの?」

九条結衣は呆れ気味に言った。

この甘えん坊な性格は、記憶喪失になる前と全く同じだ。

九条結衣の目には、思わず笑みが浮かんだ。

今、唯一の慰めは、彼が生きて帰ってきたこと。そして、彼女のことを忘れていても、依然として彼女を愛しているということ。それだけで十分だった。

口では藤堂澄人の甘えっぷりに文句を言いながらも、彼女は付き添うことを承諾した。

それに、藤堂澄人が言わなくても、彼女はこんな時に彼から離れるつもりはなかった。

彼は子供ではないが、記憶を失った人にとって、この世界は見知らぬものだ。

そして彼女は、彼の心に安心感を与えることができるのなら、その安心感を奪うことなどできない。

彼と一緒に年を重ねていくと約束したのだから、そうでしょう?

九条結衣の顔に、瞳に、笑顔が広がった。

「早く仕事に行きなさい。私はここで待っているから」

「ありがとう、奥さん」

お礼を言った後、彼は一瞬考えて首を振った。「いや、大人がお礼を言うのはおかしいな。行動で示すべきだ」

言葉が終わるや否や、九条結衣が警戒の表情を浮かべる前に、藤堂澄人は彼女の唇に軽くキスをした。

彼女が怒る前に、藤堂澄人は急いで立ち上がり、デスクに戻って座り、書類を手に取って真面目な顔で読み始めた。

まるで先ほど彼女にちょっかいを出した人が自分ではないかのように。

九条結衣の口元が少し引きつり、そして軽く笑いながら視線を外した。

水を飲もうと立ち上がった時、突然お腹が蹴られ、予期せぬことに九条結衣は思わず驚きの声を上げた。

彼女の驚きの声を聞いた途端、真面目に仕事をしていた藤堂澄人は即座に彼女の方を見た。次の瞬間、手の書類を置き、立ち上がって彼女の元へ歩み寄った。

「どうしたんだ?」