このような認識により、木村靖子は徐々に興奮し始め、頬まで薄く赤く染まってきた。
しかし、すぐに違和感に気づいた。
彼が記憶を失っているのなら、どうして彼女のことを覚えているのか、どうして自ら刑務所まで来て彼女を連れ出したのか。
九条結衣のような嫌な女が、彼にこのことを話すはずがない。
それに、九条結衣が話したとしても、きっと彼女のことを悪く言いふらすだけで、どうして澄人が彼女を出所させるだろうか?
木村靖子には理解できず、疑問を口にした。
「澄人さん、じゃあ...どうして私のことを覚えているの?」
藤堂澄人は隠さずに、直接答えた:
「昏睡状態の時、脳裏に常にある場面が浮かんでいた。9年前の陥れられた事件のことだ。」
彼がそのことを口にすると、木村靖子の表情が、かすかに変化した。
「君が『逃げて』と叫び、『私のことは気にしないで』と言った声と、君が暴行を受けて重傷を負った姿を、おぼろげながら覚えている。」
「君の他に、山田叔母さんのことも覚えている。」
山田叔母さん?
木村靖子にとってその人物は見知らぬ存在だったが、質問はしなかった。澄人がさらに話を続けることを知っていたからだ。
「山田叔母さんは私にとってとても大切な叔母で、母親のような存在だ。私は誰のことも覚えていないのに、君と山田叔母さんだけを覚えているということは、君たち二人だけが信頼できる人物だということだろう。」
藤堂澄人のこの言葉は特に誠実で、同時に木村靖子の心を激しく揺さぶった。
澄人が彼女と山田叔母さんだけを信頼できると言ったの?
つまり、山田叔母さん以外で、彼女が最も重要な人物だということ?
木村靖子は考えれば考えるほど興奮し、落ち着こうと努めても、今や目に浮かぶ感情を抑えきれなかった。
「9年前のことについて、山田叔母さんは私から聞いていたはずだと思い、彼女に尋ねてみた。案の定...」
藤堂澄人がここまで話すと、木村靖子は彼の顔に冷たい殺意が浮かぶのを見た。
「案の定、九条結衣という女は9年前に私を陥れていたんだ!」
ここまで聞いて、木村靖子は藤堂澄人が刑務所まで自ら迎えに来た理由を理解した。
彼は以前の記憶を失っているため、過去について簡単に判断することはできない。