967.あなたは私の親しい人

「調べてみたが、当時お前が売った企業秘密で、藤堂グループが被った損失は2億ちょっとだ。その程度なら私も損失を負担できる。無理に刑務所に入れる必要はなかったな」

木村靖子は藤堂澄人のその言葉を聞いて、明らかに一瞬戸惑った。彼女は澄人がこんなことを言うとは予想していなかったのだ。

2億円は彼が賠償できる額だし、当時、父は澄人に彼女を許してもらうために、倍額の賠償を申し出たが、すべて澄人に拒否されていた。

なぜ彼は今になって、こんなことを言うのだろう?

しかしすぐに、木村靖子は理解した。九条結衣というあの女以外に誰がいるというの?

そうだ、これまでの年月、澄人は金銭的な面で彼女に対して決してケチではなかった。2億円以上のお金でも彼は惜しみなく与えてくれた。なのに、なぜあの1、2億の損失を気にしたのだろう。