090 神崎卓礼の息が熱くなり、喉が鳴る

道乃漫は首を振り、彼が突然こんなにも真面目になったことに、なぜか彼と目を合わせる勇気が出なくなった。

まるで彼が前世の憧れの存在に戻ったかのように、彼女は黙って仰ぎ見るしかなかった。

ただ今は、彼との距離が少し近くなっていた。

エレベーターの中には二人きりで、病院のエレベーターは本来とても広々としていた。

しかし神崎卓礼がそこに立つと、なぜか狭苦しく感じられた。

道乃漫は自分の頬が熱くなるのを感じ、慌てて首を振った。「昔のことは、なかったことにして、忘れましょう。」

「ああ」神崎卓礼は一言答えると、黙り込み、静かに道乃漫を見つめていた。

エレベーター内の密閉された空間は彼の思惑通りで、彼と道乃漫だけがいて、道乃漫の身に漂う淡い香りが病院の消毒液の匂いを覆い隠すかのようだった。

彼女が俯いているのを見て、おそらく彼の視線を感じたのか、白い頬が目に見えて赤くなっていった。

白い肌が淡いピンク色を帯び、桜の色のようだった。

神崎卓礼の角度からは、彼女の通った鼻筋と柔らかく少し豊かな唇も見えた。

神崎卓礼の息遣いが熱くなり、喉が動き、また彼女にキスしたくなった。

心の中の野獣が彼女に近づき、彼女をエレベーターの壁に押し付けて激しくキスしたいと叫んでいた。

長い間会っていなかったから、彼女の甘さが恋しかった。

経験していなければまだしも、確かに彼女にキスをした、その味は今でもはっきりと覚えていて、夜な夜な夢に見る。

今、本人が目の前にいるのに、どうして抑制できようか?

心の中の野獣が今にも噴出しそうだった。

この時、彼は何も考えられなくなっていた。紳士も魅力も、すべて頭の後ろに放り投げていた。

道乃漫が下を向いたまま、神崎卓礼が動いたのを見た。足を上げて彼女に近づこうとしているようだった。

彼女は緊張して息を止めた。後ろに下がることもできたはずなのに、この時ばかりは足が震えて動くことすらできなかった。

「カーン」という音が鳴った。大きな音ではなかったが、この時は爆発音のように感じられた。

エレベーターのドアが開き、一階に到着していた。

神崎卓礼は上げかけた足の向きを変え、エレベーターを出た。

彼が出ていくと、道乃漫はようやく呼吸ができるようになったかのように、大きく息を吸い、すぐに後を追った。