090 神崎卓礼の息が熱くなり、喉が鳴る

道乃漫は首を振り、彼が突然こんなにも真面目になったことに、なぜか彼と目を合わせる勇気が出なくなった。

まるで彼が前世の憧れの存在に戻ったかのように、彼女は黙って仰ぎ見るしかなかった。

ただ今は、彼との距離が少し近くなっていた。

エレベーターの中には二人きりで、病院のエレベーターは本来とても広々としていた。

しかし神崎卓礼がそこに立つと、なぜか狭苦しく感じられた。

道乃漫は自分の頬が熱くなるのを感じ、慌てて首を振った。「昔のことは、なかったことにして、忘れましょう。」

「ああ」神崎卓礼は一言答えると、黙り込み、静かに道乃漫を見つめていた。

エレベーター内の密閉された空間は彼の思惑通りで、彼と道乃漫だけがいて、道乃漫の身に漂う淡い香りが病院の消毒液の匂いを覆い隠すかのようだった。