091 彼は本当にいい人だ

おそらく、神崎卓礼の言う通り、以前の自分の行動を申し訳なく思っているから、彼女のために何かしたいと思ったのだろう。

神崎卓礼は車のドアを開け、「行くよ。帰りなさい」と言った。

道乃漫は頷いたが、動かなかった。彼が行くのを見送るつもりだった。

神崎卓礼は道乃漫が手に持っている携帯電話に目を向け、「前も言ったけど、何かあったら電話してくれ」

道乃漫が彼に連絡したのは一度だけで、それも彼にお礼を言い、お金を返すためだった。

そうでなければ、本当に困ったことがあっても、道乃漫は彼に連絡しようとは思わないだろう。

神崎卓礼は不機嫌そうに、「本当の話だよ。何かあったら電話してくれ。君は一度も僕に連絡してこなかった」

道乃漫は一瞬戸惑い、「はい」と答えた。

でも、彼は彼女に何か起こることを望んでいるのだろうか?