おそらく、神崎卓礼の言う通り、以前の自分の行動を申し訳なく思っているから、彼女のために何かしたいと思ったのだろう。
神崎卓礼は車のドアを開け、「行くよ。帰りなさい」と言った。
道乃漫は頷いたが、動かなかった。彼が行くのを見送るつもりだった。
神崎卓礼は道乃漫が手に持っている携帯電話に目を向け、「前も言ったけど、何かあったら電話してくれ」
道乃漫が彼に連絡したのは一度だけで、それも彼にお礼を言い、お金を返すためだった。
そうでなければ、本当に困ったことがあっても、道乃漫は彼に連絡しようとは思わないだろう。
神崎卓礼は不機嫌そうに、「本当の話だよ。何かあったら電話してくれ。君は一度も僕に連絡してこなかった」
道乃漫は一瞬戸惑い、「はい」と答えた。
でも、彼は彼女に何か起こることを望んでいるのだろうか?
神崎卓礼は不満げに車に乗り込んだ。道乃漫の「はい」という返事が、まだ適当な返事のように感じられた。
車の窓を下ろし、道乃漫に手を振ってから、やっと車を発進させた。
***
道乃漫が病室に戻ると、夏川清未は手招きして道乃漫を呼び寄せ、声を潜めて「正直に言いなさい。あなたと神崎はいったいどういう関係なの?」
道乃漫は口を動かし、思わず尋ねた。「お母さん、相手が誰か分かって神崎って呼んでるの?」
「知らないわけないでしょう?私の手術費を立て替えてくれたあなたの友達じゃない。彼が入ってきた時、柴田姉貴がすぐに気付いたわ。柴田姉貴の言った通り、本当にハンサムね」と夏川清未は褒めた。
道乃漫は目を上げて見ると、カーテンが引かれていて、柴田叔母が耳を傾けているかどうか分からなかった。
そこで、さらに声を落として「彼は神崎創映の社長よ」と言った。
夏川清未はそれを聞いて、驚いた。
芸能界に疎い彼女でも、神崎創映のことは知っていた。
元々道乃漫と神崎卓礼を引き合わせようと思っていた気持ちも、すぐに消えた。
「でも、そんな大物が私に会いに来るなんて?あなたはどうやって彼を知ったの?」と夏川清未は驚いて尋ねた。
道乃漫は仕方なく、道乃啓元に話したのと同じ説明を夏川清未にもした。