164 道乃漫がつま先立ちで神崎卓礼の顎にキスをした

デュランが株主の甥でも駄目だ。

「会議室で話しましょうか?」道乃漫は神崎卓礼の仕事の邪魔をしたくなかった。

「ここで大丈夫だよ。特に何もすることないから」と神崎卓礼は言った。

森田林は「へへ」と笑って、「おや、神崎兄、兄嫁さんをいじめるとでも思ってるの?」

「そんなことないさ。彼女をいじめることなんてできないよ。彼女は凄いんだから」神崎卓礼の顔には得意げな表情が溢れていた。

森田林は口角を引きつらせた。誰が神崎卓礼がこんな恋する男になるとは思っただろうか。

「じゃあ、ここで話しましょう」森田林も場所にはこだわらなかった。

「企画案の件は一旦置いておきましょう。それは長期的な話ですから。まずは今夜のチャリティーナイトについて。記者の取材があるので、予め想定される質問を考えてみました。私が質問しますので、どう答えるのが適切か相談しましょう。失礼な質問があっても気にしないでください」と道乃漫は言った。

「どうぞ。記者からの想定質問だってわかってますよ」森田林は気さくに答えた。

そこで、道乃漫はいくつかの質問をした。

森田林の元妻のこと、現在の妻のこと、当時第三者だったのかどうか、現在の妻の状況などについて。

心の準備をしていた森田林でも、汗を流しながら「兄嫁さん、質問が鋭すぎますよ。記者よりも突っ込みどころを見つけるのが上手いです」

怒っていない様子を見て、道乃漫は笑いながら説明した。「記者の質問もそう変わらないと思います。言い方は違っても、核心は同じですから。さっきの質問の答え方はちょっと適切じゃなかったと思います。私の考えた答えを聞いてみてください」

森田林は道乃漫の答えを聞いて、膝を叩いた。「やっぱりその方がいいですね。はい、覚えておきます」

道乃漫は頷いた。森田林がプライベートではこんな性格だとは思わなかった。付き合いやすい人だった。「今夜、予想外の質問が出ても、スルーしてください。たくさんの記者がいるので、全ての質問に答える必要はありません」

森田林は一つ一つ頷きながら同意した。

「話は終わった?終わったなら早く帰れよ」神崎卓礼は人を追い出した。道乃漫との時間を奪われたくなかった。

「……」森田林は口角を引きつらせ、腕時計を見た。「わかりました。私も今夜のヘアメイクと衣装の準備があるので、これで失礼します」