神崎卓礼は声を抑えたものの、その喜びは隠せなかった。
「好きじゃないのに、どうして私があなたの彼女になることを承諾したと思うの?」道乃漫はそう言いながら、彼の唇に軽くキスをした。
神崎卓礼は彼女をしっかりと抱きしめ、後退させることなく、強く唇を重ねた。「今のその言葉、忘れないでよ。好きになった以上、心を取り戻すことは許さない。あなたの心は私のものだ、取り戻すことなんてできない。」
男の表情は真剣で、その目に宿る執着は恐ろしいほどの濃さだった。
しかし道乃漫は少しも怖くなかった。彼の顔を両手で包み、鼻先を寄せ合わせながら言った。「わかったわ。神崎卓礼、私はあなたが好き、どんどん好きになっていく。今、たとえあなたが心を取り戻せと言っても、もう取り戻せない。取り戻したくても無理、私の意志ではどうにもならないの。」
「考える必要もない。」神崎卓礼は強引に言い放った。
そのとき、ドアがノックされた。
藤井天晴がドアの外から声をかけた。「社長、森田林さんがお見えになりました。」
神崎卓礼は、なんとも間の悪いタイミングだと思った。
道乃漫は驚いて「本当に森田林さんを呼んだの?」
単なる言い訳だと思っていたのに。
「彼も今夜のチャリティーナイトに参加する予定だから、会って知り合っておいた方がいい。記者たちが彼の過去について質問するはずだから、もし不適切な回答があれば、すぐにその場で対処するか、後で適切なフォローをする必要がある。」神崎卓礼は説明した。
「わかったわ。」道乃漫は頷いた。
道乃漫の髪と服は彼によって少し乱れていたので、急いで整えてから、神崎卓礼は森田林を入室させた。
森田林はイケメンというわけではなく、高いEQとユーモアで大勢のファンを魅了していた。
森田林の成功は、芸能界で誰も真似できないものだった。
森田林は道乃漫を見て、彼女が身なりを整えていたとはいえ、服のシワは見て取れた。神崎卓礼を見ても同じ状態で、思わず眉を上げた。
「これが兄嫁さんですか?」森田林は興味深そうに道乃漫を見た。一目で彼女が若いことがわかり、自分や神崎卓礼よりもずっと年下だった。
この「兄嫁さん」という呼び方は的確だった。
道乃漫は、森田林と神崎卓礼がこれほど親しい関係だとは思っていなかった。