それだけではなく、胸がちょうど彼の顔に当たってしまった。
神崎卓礼は絶妙なタイミングで顔を埋めた。
道乃漫は顔を真っ赤にして、両手でベッドを押して起き上がろうとした。
しかし、神崎卓礼の腕の力には抗えなかった。
しばらくして、胸が熱くなりすぎて、やっと解放された。
長い腕を伸ばして、彼女の携帯を取った。
着信音を消し、時間を確認すると、まだ5時30分だった。
神崎卓礼は眉をひそめ、「こんなに早く起きるの?」
「そうなの。」道乃漫はようやく自由になり、起き上がった時、まだ体中が落ち着かず、熱くてたまらなかった。
胸にはまだ彼の熱い温もりが残っているようだった。
「撮影現場ってこんな感じなの。朝から私のシーンがなくても、早く行って、メイクして、ヘアセットして、それから待機して、いつでも準備できる状態でいなきゃいけないの。私のシーンがいつ来るかわからないから。各シーンの時間や順序は固定されてないの。天候とか環境とか、いろんな要因で変わることがあるから。」道乃漫は説明した。
「それは大変だね。」神崎卓礼も同じ業界にいるとはいえ、彼はトップに位置していて、撮影現場を訪れたことはなく、撮影の細かい部分は知らなかった。
それに、芸能人がどれほど苦労しているかなんて、気にもしていなかった。
「今回の撮影が終わったら、もう撮影はやめよう。」神崎卓礼は道乃漫を心配した。
道乃漫の実力からすれば、小さな俳優として撮影現場に入る必要なんてない。
「実は、撮影はとても面白いの。私、好きになってきたの。」道乃漫は笑って言った。「たくさんの挑戦があるの。前は好きなことを自由に選べなかったけど、今はそんなに大きなプレッシャーもないから、好きなことをやってみたいの。私、撮影が好きなの。」
道乃漫が本当に撮影に興味を持っているのを見て、神崎卓礼はしぶしぶ頷いた。「わかった。でも、これからは慎重に選ぼう。有名監督の大作じゃなければ、行かないことにしよう。」
道乃漫は心の中で、自分は新人だから、神崎卓礼がいるからこそ、こんな自信が持てるんだと思った。
神崎卓礼は芸能界の汚い部分をよく知っていたが、道乃漫が足を踏み入れることを止めはしなかった。