彼女の方は大丈夫だったが、問題はオフィスの他のメンバーたちが、まだ衝撃の中にいることだった。
神崎卓礼は道乃漫に時間を与えるため、彼女に微笑みかけ、遠慮なく言った。「じゃあ、先に行くよ」
その声は柔らかく、普段の口調とは全く違っていた。
おそらく道乃漫に対してだけ、こんな風なのだろう。
神崎卓礼が河野社長と藤井天晴を連れて広報部を出ると、村上副社長がまだ広報部の外で待っていた。
広報部の中では恥ずかしすぎると思ったのか、神崎卓礼が出てくるのを見て、急いで近寄ってきた。
「社長、道乃漫さんがあなたの彼女だとは知りませんでした」村上社長は媚びるように小声で言った。「もし知っていたら、決して彼女に失礼な態度は取らなかったはずです。社長、今回は本当に申し訳ありませんでした。どうか大目に見てください」
神崎卓礼は彼を見向きもせず、大股で前に進んだ。
村上副社長が追いかけようとしたが、藤井天晴に止められた。「村上副社長、多くの社員が行き来していますから、見苦しいですよ。まずはオフィスに戻られた方がよろしいかと」
村上副社長は言葉に詰まり、「では社長は私のことを―」
「ふふ」藤井天晴は低い声で言った。「社長は私情で物事を判断する人ではありません。今回は道乃漫さんの件がなくても、一般社員に関することで、あなたのやり方は間違っていました。我が神崎創映の社員が、なぜ一介の芸能マネージャーの言うことを聞かなければならないのですか?この会社は誰のために経営しているのですか?部署全体が遠野弁護士の顔色を伺わなければならないとでも?彼に何の権限があるというのですか?」
「いや、違います...」村上副社長は冷や汗を流した。「彼が...説明不足だったんです。私たちの広報部の社員が不適切な行動をしたと思い込んでしまって。彼とは付き合いが長かったので疑うこともせず、まさか彼に騙されるとは」
藤井天晴は「ふふ」と笑い、「村上副社長、実際どうだったのか、私たちも社長も分かっています。この言い訳を社長に直接言えますか?」
村上副社長の顔色が目まぐるしく変わる中、藤井天晴は冷たい声で言った。「もう追いかけるのはやめた方がいいでしょう」
そう言って、村上副社長を置き去りにし、神崎卓礼の後を追った。
村上副社長は後ろに取り残され、すっかり意気消沈していた。