だから、お父さんが見た彼女の茶碗に入った肉は、毎回彼女の茶碗を通りかかっただけで、また戻っていったのだった。
言い終わると、橋本奈奈と橋本東祐は同時に同じ動作をした。それは目頭に手を当てて、涙を拭いたのだった。
「お父さん、私は本当にお父さんとお母さんの実の子なの?」目頭を拭った後、橋本奈奈は思わず尋ねた。もし違うのなら、少しは気が楽になるかもしれない。実の子と養子では当然違うのだから。
しかし、そう尋ねた途端、橋本奈奈は答えを聞きたくなくなった。
生き返る前に、橋本絵里子が母親にはっきりと告げたことを覚えていた。親族の臓器の適合率が割と高いと。
だから、彼女は間違いなく両親の子供で、橋本絵里子とも実の姉妹なのだ。橋本絵里子は自分の命を賭けて冗談を言うようなことはしない。
実の子なのに、どうして母親は彼女にそんなに冷たいのだろう?
「変なことを考えるな。お母さんは一時的に迷っただけだ」と言って、橋本東祐は泣くような笑みを浮かべた。
もし奈奈が三歳なら、この言葉で子供を騙すことができただろう。しかし奈奈は中学生なのだ。どうしてこんな言葉を信じられるだろうか。彼自身も信じていないのに!
初めて次女がこのような生活を送っていたことを知り、今でもお医者さんに質問された時のことや、その眼差しを思い出すと、橋本東祐は恥ずかしくて頭が上がらなかった。
橋本東祐は顔を上げて橋本奈奈を見た。「奈奈、これからは家で好きなように食べていいんだ。お母さんのことは、後で私から話しておく」
橋本奈奈は頷いた。「お父さん、もしお母さんが私を学校に行かせなくなったらどうしよう?」
「そんなことあるはずがない!」橋本東祐は即座に首を振った。「お母さんがそんなことするわけない。今の時代、勉強が一番大事だし、お前は成績もいいんだ。お母さんが勉強させないわけがないんだ」
橋本のお父さんが家庭の状況や、橋本のお母さんと橋本絵里子の思惑について全く知らないのを見て、橋本奈奈はため息をついた。前世で彼女がそんなにひどい目に遭ったのも無理はないと思った。
お父さんは外の仕事だけを担当し、家の中のことは全てお母さんに任せきりだった。だからお母さんが好き勝手にできたのだった。
「お父さん、私は勉強を続けたい。大学に行きたいのよ!」
「いいとも、行けばいい。成績さえ良ければ、お父さんはまだ若いんだし、必ず大学まで行かせてやる」橋本東祐の目が輝き、喜色満面だった。
娘にそんな志があることは、橋本東祐にとって喜ばしいことだった。
橋本東祐はずっと知っていた。妻がどんなに綺麗事を言っても、次女は長女より年が下なのに、毎回のテストに長女より良い成績を取っていた。どう比べても。
長女の成績はずっと中流程度だったが、次女は違った。次女はクラスでも、学校全体でも、ずば抜けた存在だった。
点滴を終えて、橋本東祐は四百円ほど使い、薬をもらって自転車で次女を家に連れて帰った。
橋本東祐と橋本奈奈が自転車から降りると、夫と娘が帰ってきたことを知った伊藤佳代はすぐに飛び出してきて、橋本東祐の手を引っ張って尋ねた。「いくらかかったの!」
橋本東祐は顔をしかめ、不機嫌な口調で言った。「いくらかかったかが重要なのか?大事なのは奈奈の病気が良くなることだろう!解熱剤が期限切れでも構わない、病院には薬がいくらでもある。見ろ、点滴一本で奈奈の熱は下がったじゃないか」
橋本東祐は家のことほったらかしにしてたけど、バカではなかった。
妻は口を開けば金の話ばかりで、明らかに次女にお金を使いたくなかっただけだった。
妻がそうであればあるほど、橋本東祐は次女のためにお金を使おうと思った。病気の治療費まで節約するなんてありえない!
橋本東祐は思いを巡らせた。次女が病院で自分に尋ねた言葉を思い出した。娘の治療費でさえケチる妻なら、次女が大学に行くとなればもっとお金がかかる。
妻はまた次女に何か変なことを言ったのではないだろうか?
案の定、橋本東祐のこの言葉を聞いて、伊藤佳代の顔は青ざめ、激しい後悔に胃が締め付けられる思いだった。
病院に行って点滴を打ったとなると、伊藤佳代は指折りながら計算した。どう考えても四百円以上はかかる。この二人の金遣いの荒い奴ら。
こうなるなら、解熱剤を捨てずにこのクズ娘に飲ませればお金も節約できたのに。お金を稼げないくせに、使う腕前は一人前なんだからね!
「私が言ったでしょう。病院なんかに行く必要がないよ。あの解熱剤は期限切れてないし、彼女に飲ませておけばよかったのに」
そう言いながら、伊藤佳代は夫に手を出す勇気がなく、代わりに脇に立っていた橋本奈奈に手を伸ばし、彼女の背中をバシンバシンと何度も強く叩いた。
橋本東祐は目を睨みつけて、自転車を放り出して次女を後ろに引っ張った。「何をする!」
橋本絵里子は驚いて、急いで間に割って入ってなだめた。「お母さん、奈奈はまだ病気なんだよ。奈奈、部屋に戻って休もう。私が送ってあげるから」
お金は使ってしまったし、お母さんがどれだけ騒いでも、お父さんが病院にお金を返してもらえるのか?
それに、今日橋本奈奈が使ったお金は、橋本奈奈がアルバイトに行けば、必ず十倍、百倍になって返ってくるはずだ。お母さんは焦る必要がないだろう。
橋本奈奈は伊藤佳代を一瞥し、橋本絵里子に支えられて部屋に戻って休むことにした。一生で橋本絵里子に支えられることなんて何度あるだろうか。いつも自分が橋本絵里子を支える立場だったのに。
熱は下がったものの、この一日の疲れで橋本奈奈は本当に疲れていた。それに先ほど五分目しか食べていなかったこともあり、橋本奈奈は眠くなってきた。
その後のことは気にもせず、橋本奈奈は自分の部屋に戻り、薄い布団をかぶるとすぐに眠りについた。うとうとする間に、父と母が喧嘩する声が聞こえてきたような気がした。
完全に眠りに落ちる直前、橋本奈奈は心の中でつぶやいた。喧嘩したいなら勝手にすれば。
前世では、両親の仲を取り持とうと、両親が喧嘩するたびに仲裁に入った。その度に、家庭の平和のために自分を犠牲にするしかなかった。
現世では、もうそんな馬鹿なことはしない!
翌日、橋本奈奈は元気いっぱいに目覚めた。熱が下がると、咳も鼻水も出なくなり、すっかり元気になって来た。
「奈奈、起きた?」
「起きたよ」
「入ってもいい?」
「入りたければ入ればいいじゃない」
橋本奈奈は橋本絵里子に入るかどうかを選択肢を与えた。
ドアの外の橋本絵里子は一瞬戸惑った。橋本奈奈は昨日から何か様子がおかしく、いつもと違っていた。
橋本絵里子はドアを押して、もちろん入ってきた。「奈奈、私、胸が苦しくて。少し話してもいい?」
橋本奈奈は無表情で答えた。「話したければ話せばいいし、話したくなければ話さなくてもいい」
橋本絵里子は橋本奈奈のこの態度に言葉を詰まらせた。「奈奈、どうしたの?私に怒ってるの?」
以前の橋本奈奈はこんな風に話さなかった。普段なら、橋本奈奈はすぐに何を悩んでいるのか心配して、解決策を考えてくれたはずだった。
橋本絵里子は橋本奈奈の姉だが、普段の生活では橋本奈奈が橋本絵里子の面倒を見ることの方が多かった。
橋本絵里子は橋本奈奈という妹が好きではなかったが、ちやほやされて育った橋本絵里子にとって、橋本奈奈のこのよそよそしい態度を理解できなくて困っていた。
橋本奈奈は皮肉っぽく橋本絵里子を見た。「なぜ私があなたに怒っていると思うの?」