「今は初秋で、とても暑くて、誰もが汗をかいていて、汗臭い匂いがするわ。あなたが分かってきたと思ったら、また馬鹿なことを言うのね。お嬢ちゃんの前で臭いなんて言うものじゃないでしょう!」
斎藤昇は皮肉っぽく片方の口角を上げた。「お前はどうやって部隊に入ったんだ?四肢発達、頭脳単純で捨て駒になれるからか?」
斎藤花子は吐血しそうになった。なんて毒舌な実の弟だろう!
「これらの本は橋本奈奈が廃品回収所から買ってきたものだろう」
斎藤昇の目は鋭く、橋本奈奈の身についた匂いと疲れた顔色から、斎藤家に来る前にどこに行っていたか判断できた。
斎藤花子は眉を上げた。本当?
橋本奈奈が再び本を抱えて戻ってきたとき、斎藤花子はようやく橋本奈奈の性別ではなく、人としての橋本奈奈に注目するようになった。
橋本奈奈の状態が斎藤昇の言った通りだと分かり、斎藤花子はやっと安心した。「どうして廃品回収所で古本を買うの?」
そして何気なくめくると、堀江英二の本が見つかった。
「……」橋本奈奈は気まずそうに笑った。なぜか、斎藤お兄さんの前では家庭の事情を話せるのに、お兄さんの姉の前では言葉が出てこなかった。
「この学習机は?」橋本奈奈は今回入ってきて、物置に電気がついているだけでなく、頑丈な学習机が一式あることに気づいた。
机はとても清潔で、表面も滑らかで、以前よく使われていたことが一目で分かった。
「姉のものだ。家にいる時間が少ないから、置いておいても埃をかぶるだけだ」と斎藤昇は言った。
「斎藤さん、ありがとうございます」橋本奈奈は真剣に斎藤花子にお礼を言った。今や本を置く場所があるだけでなく、学習机まで手に入れた。
この物置の環境は、橋本家で勉強していた時よりもずっと良かった。
橋本奈奈はこっそり目を擦った。こう考えると、神様は彼女に優しかったのかもしれない。人生をやり直させてくれただけでなく、二人の素晴らしい人々と出会わせてくれた。
斎藤花子は眉を上げ、口を小さな「O」の形に尖らせ、意味ありげに斎藤昇を見た。奈奈さんはどうしたの?感動して泣いているの?
「本は全部持ってきたのか?」斎藤昇は斎藤花子の表情を無視し、橋本奈奈が持ってきた本が中学一年から三年までの一式であることを確認した。
「全部持ってきました」橋本奈奈は心を痛めながら言った。十五年かけて貯めたお金から、これらの本のために六十円も使ってしまった。
橋本奈奈は本当に疑問に思った。母親が自分と橋本絵里子の本を全部売っても、六十円にはならなかったのではないだろうか。
「よし、この場所はお前に任せる」まだ立ち去りたがらない斎藤花子を引っ張りながら、斎藤昇は強引に出て行った。
「何するのよ」斎藤花子は不機嫌そうに斎藤昇の手の甲を叩いた。「お嬢ちゃんにそんなに優しくして、学習机まで譲って、しかも良いことをした名前を私に押し付けて。私はあなたの実の姉なのに、どうして私にはそんなに優しくしてくれないの?」
「そうそう、奈奈さんはどういう事情なの?どうして廃品回収所で本を買わなきゃいけないの?」
「なぜだと思う?」斎藤昇は斎藤花子を横目で見た。分かっているくせに。
斎藤花子は口角を引き攣らせた。「この生意気な弟、実の姉にこんな態度をとるの?」
斎藤昇は斎藤花子を白い目で見て、何も言わなかった。
頼りにならない上に弟を困らせるのが好きな姉がいるなら、気を付けていないと、とっくに斎藤花子にやられていただろう。
斎藤花子は物置で真剣に本を読み始めた橋本奈奈をちらりと見てから、やっと斎藤昇の後を追い、橋本奈奈のことについてこれ以上意見を言うのを控えた。
邪魔する人がいなくなり、橋本奈奈は真剣に本を読んだ。
数学の多くの知識は、橋本奈奈はほとんど忘れていたが、一度は学んだことがあるので、例題を見ると、比較的早く理解できた。
国語に関しては、読解はまだ良かったが、暗記が必要な内容は本当に一からやり直し、一冊ずつ覚えていく必要があった。
あっという間に一日が過ぎ、橋本東祐が仕事から帰ってきて、最初に呼んだのは末っ子の名前だった。
伊藤佳代はほっとした。橋本奈奈が家出した後、橋本さんを探しに行かなかったようで、あの子にもまだ良心があるようだ。
「呼ばないで、橋本奈奈は外で遊んでいて、家にいないわ」伊藤佳代は橋本東祐にすぐにそう言った。「女の子なのに、心は男の子より野性的で、一日中家にいないのよ。こんな調子じゃ、中学三年生になっても無理でしょう。ちょっとした賢さを鼻にかけて、本当に三年間ずっとうまくやれると思っているの?」
橋本東祐は水を一口飲み、濡れタオルで顔の汗を拭いてから、伊藤佳代を見た。「私は言ったはずだ。奈奈が勉強したいなら、支援すると」
「支援、支援って、勉強にはお金がかからないとでも思っているの!」伊藤佳代は怒り出し、橋本東祐と口論を始めた。
「お金?私に出せないとでも?私の給料で奈奈の学費が出せないとでも?」橋本東祐も怒った。娘を産む余裕があるなら、育てる余裕もある!
伊藤佳代は顔を赤らめた。「家の状況を分かっているの?絵里子は高校に入学して、以前より出費が増えているのよ。家で食べるもの、使うもの、どれも お金がかかるでしょう?」
橋本奈奈が働きに出れば、家計の負担が減るだけでなく、収入も増えるのに、何が悪いというの!
橋本東祐は少し考え込んだ。「絵里子が高校に入って、以前より出費が増えても、せいぜい毎月の給料が貯金できなくなる程度だ。家には貯金があるだろう?何か問題が起きても、何を心配することがある?」
橋本東祐は家に五千元ほどの貯金があったはずだと覚えていた。多くはないが、普通の緊急事態なら十分だった。
橋本東祐が貯金の話を持ち出すと、伊藤佳代の顔が青ざめ、ひどく動揺した。
どうやって少しでも多くお金を稼げるか考えに没頭していた橋本東祐は、伊藤佳代の動揺した表情に気付かなかった。だから、彼が何年もかけて苦労して貯めた五千元以上が、とっくに伊藤佳代によって長女の高校入学の手続きに使われてしまっていたことにも気付かなかった。
伊藤佳代が焦って橋本奈奈に学校を辞めて働かせようとしたのは、本当に橋本奈奈の学費を出したくないという理由の他に、家に貯金がないことも原因だった。
手元に余裕がなく、伊藤佳代は不安でたまらなかった。
伊藤佳代は焦って足を踏んだ。橋本さんのこの気性は、一度出てしまうと、十頭の牛でも引き戻せない。
幸い橋本さんは、あの子が学校を辞めることに同意すれば強制しないと言っていたので、この件は、やはりあの子から手を付けないといけない。
伊藤佳代は考えてみると、橋本奈奈の進学を止めるのは簡単だが、橋本奈奈に自ら学業を諦めさせ、口に出して辞めると言わせるのが最も難しいことに気付いた。
この二日間、あの子は何かおかしくなったのか、以前は役に立たなかったが、少なくとも言うことは聞いていた。今は自分と絵里子の言うことさえ聞かない。
「絵里子は?」末っ子が家にいないなら、長女はどうして見かけないんだ?
伊藤佳代は嬉しそうに顎を上げた。「絵里子は言ってたわ。大学生になりたいって。今回の中学受験はうまくいかなかったから、もう一度知識を復習して、高校に入ってから成績を追いつかせたいって」
「うん」娘が勉強熱心なのは、橋本東祐ももちろん嬉しかった。「娘のために美味しいものをもっと作ってやってくれ。それと、もし私の知らないところで奈奈をいじめたら、容赦しないからな!」