第039章 欲しくない

その言葉を残すと、橋本東祐は佳代の反応も待たずに部屋に戻った。

伊藤佳代は目に涙を浮かべ、橋本奈奈に向かって叫んだ。「こんな目に遭わせて、これで満足なの?あなたったら、家庭を壊す厄介者、前世で私に借りでもあるの?」

橋本奈奈の一言で橋本東祐が通帳を見ようとし、この件が発覚したことを思い出し、伊藤佳代は全ての怒りを橋本奈奈にぶつけた。

「奈奈、今回はやり過ぎよ。これは私たちのお母さんなのに、どうしてこんなひどいことができるの」橋本絵里子は、まだ橋本奈奈が白洲隆と親しくなれる機会があることを妬み、必死に橋本奈奈を中傷した。

「私の本当のお母さんかどうか分からないけど、あなたの実の母親であることは確かね。あなたは成績が悪くても、家の貯金を全部使って学校に行かせてもらえる。私は成績が良くても、無理やり仕事をさせられる。一体誰が誰に借りがあって、誰が借りを返しているの?」

橋本奈奈は我慢の限界に達し、伊藤佳代と橋本絵里子に詰め寄った。

たとえ本当に伊藤佳代に借りがあったとしても、前世で十分返したはずだ。最後には実の母親に殺されるほど苦しめられ、命まで返したのだから。

「お母さん、私が悪いって言うけど、聞きたいわ。姉さんの方が年上なのに、私は家で洗濯も掃除も全部やってる。姉さんは何をしたの?私は使用人の侍女で、姉さんはお嬢様なの?だから私は拾われてきた子なの?黙っていても、全部分かってるわ。お母さんは姉さんに肩入れして金を使い果たし、その穴埋めのために私に仕事をさせようとしてる。お母さん、そんなことして良心が痛まないの?」

「あなた...」伊藤佳代は後ろめたさで言葉に詰まった。「何を言い出すの。私があなたに仕事をさせるのは、あなたのためよ。勉強ができても、将来必ずしも出世できるとは限らないわ」

「勉強ができても出世できるとは限らないなら、早く社会に出て働いた方がいいって?お母さん、姉さんみたいに成績が平凡な人が将来お金を稼げないかもしれないのに、こんな大金を使って役に立たない勉強をさせるの?お母さん、私は十五歳よ、五歳じゃない。そんな言い訳、信じられると思う?」

橋本奈奈は伊藤佳代の言葉に呆れて笑った。三歳児をあやすようなそんな言葉を使うなんて。