橋本奈奈は笑った。橋本絵里子は文化委員になっただけなのに、彼女の母親は尾っぽを天まで上げているようだった。
橋本奈奈は疑っていた。橋本絵里子が文化委員になれたのは、純粋に母親が渡したお金の効果だろうと。
高校に入って、誰が文化なんて気にするのか。学校の活動は少なければ少ないほどいい。文化の分野は最も骨が折れて報われない。橋本絵里子が将来芸術の道に進むつもりでもない限り。
そうでなければ、学校で何か行事があるたびに、文化委員が一番大変だ。本当に勉強する時間があるのだろうか?
橋本絵里子は成績が良くないのに、文化を任せるなんて、これは重用なのか皮肉なのか、母親は考えもしない。
「奈奈、お前は何になったの?」橋本東祐は笑った。クラス委員になれるのは、やはり良いことだ。
「副級長よ。お父さん、私は毎年副級長で、毎学期三好学生と優秀クラス委員の賞状を持って帰ってきているのよ。」
「副級長?」橋本東祐は驚いた。末っ子がそんなに長く副級長を務めていたなんて、全く知らなかった。「賞状は?家で見たことないような気がするけど。」
三好学生、優秀クラス委員、この賞状は誇らしいものだ!
毎年、他人の子供が賞状を取るのを見て、自分の子供にはないと、橋本東祐はただ自分を慰めるしかなかった。大丈夫、長女は物分かりが良く、次女は成績が優秀だ、これこそが一番確かなことだと。
しかし今日まで、橋本東祐は自分の子供に賞状があったことを知った。しかも最高の賞状だ。三好学生は誰でも取れるものではない。
「副級長なんて、級長じゃないのに、何が珍しいのよ。」伊藤佳代は不機嫌な顔をした。
「絵里子が文化委員になって、あなたは喜んでいたじゃないか。副級長は文化委員より劣るとでも?」橋本東祐は呆れた。田中さんのこの論理は何なんだ。
このままでは、長女の足が臭くても、田中さんは抱きしめて香りがすると思うだろう。
「奈奈、もう四学期も経って、一学期に二枚ずつなら、少なくとも八枚の賞状があるはずだ。お父さんに見せてくれ!」
うちの子供も賞状を持っている人になったんだ!
これからは会社の同僚に聞かれても、次女の成績のことだけを話さなくても良くなった。
「ただの紙切れじゃない、見る必要なんてないわ。もうこんな時間だし、ご飯食べないの?」伊藤佳代は橋本東祐の言葉を遮り、急いで料理を運んできた。
本来なら、橋本絵里子が家にいない時は、伊藤佳代はあまり肉を買って食べたくなかった。結局、家のお金は少ないのだから。
でも橋本東祐が買うように言ったので、伊藤佳代は仕方なく、今日の食卓には肉がある。
橋本奈奈の口を封じるために、テーブルに着くなり、伊藤佳代は橋本奈奈に山盛りの肉を箸で取ってあげた。「早く食べなさい。それから部屋に戻って復習しなさい。お父さんが学校に行かせてくれるお金を無駄にしないように。」
橋本奈奈の目の奥に嘲りが光ったが、母親とは何も争わず、自分の肉を食べていた。
「これはどういうことだ?」上機嫌だった橋本東祐は眉をひそめた。「田中さん、奈奈の賞状はどこにいったんだ?」
伊藤佳代は箸を「パン」と音を立てて、テーブルに叩きつけた。「ただの紙じゃない、私がどこにしまったかなんて知らないわよ。私のものじゃないんだから。紙よ、金じゃないんだから、腐るのは当たり前でしょ?」
「腐る?」橋本東祐の表情が変わった。「紙だとしても、二年も経たないうちに腐るわけがない。正直に言いなさい、奈奈の賞状は一体どこにいったんだ?」
やはり、奈奈がこんなにたくさんの賞状を持って帰ってきたのに、一度も見たことがなく、聞いたこともなかったのは、妻の仕業だったのだ。
橋本東祐が追及を緩めないので、伊藤佳代は顔をしかめたかったが、橋本東祐の険しい顔を見て、怒りを出すことができず、不本意ながら一言言った。「裏の竈でご飯を炊くとき、火付けに使ったのよ。」
そう、橋本奈奈が取った賞状は、ほとんど家に持って帰ってきたばかりで、伊藤佳代に火付け紙として燃やされてしまったのだ。
だから、仕事から一番遅く帰ってくる橋本東祐が、橋本奈奈の賞状を見たことがあるはずがない。
「火付け?」橋本東祐の声が上がった。「自分を燃やせばいいのに?家に火付けの藁がないからって、奈奈の賞状を火付けに使うなんて?外に出て聞いてみろ、誰が子供の賞状を火付けに使うんだ。お前は本当に豪気だな。」
「何が豪気よ、ただの紙じゃない。置いておいたって金が生まれるわけでも卵が生まれるわけでもないでしょ!」伊藤佳代は腹が立って、家のお金は全部使ったのに、紙も使えないのかしら。
あの賞状なんて、置いておいても場所を取るだけ、燃やせば少しは役に立つじゃない。
「いいよ、お前は凄い、お前は偉い、それでいいのか?」橋本東祐は伊藤佳代とこれ以上話す気にもならなかった。成績のことは確認するから、妻は次女の成績を隠すことはできない。
この賞状に関しては、賞状は全て妻に燃やされ、奈奈が賞状を取ったと言うのは、口先だけの大言壮語ということになる。
なるほど、この何年もの間、妻に隠されていたことは少なくないようだ。
「絵里子が文化委員になっただけで、あなたは嬉しくて週末に絵里子に補習をさせたがる。奈奈が副級長になっても何でもなくて、賞状もただの紙切れ。いいよ、あなたは絵里子を可愛がって、私は奈奈を可愛がる。一人一人面倒を見れば、誰も損はしない。」
「その言い方は何なの?」伊藤佳代は顔を赤くして怒った。「絵里子はあなたの娘じゃないの?そんなに偏り過ぎて。」
「じゃあ奈奈はお前の娘じゃないのか?お前の心の中には絵里子しかいない。二人とも私の娘だ、誰も損はさせない。お前がいるから、絵里子が苦労や不自由をすることは心配していない。奈奈には私がいる、私も彼女に以前のような生活をさせることはない。」
今回は、橋本東祐は断固として次女の側に立った。
彼は本当に知らなかった、次女がこんなに優秀だということを。
次女の先ほどの言葉を思い出し、次女の成績を考えると、橋本東祐はすぐに理解できた。なぜ次女が級長ではなく副級長なのかを。
次女に級長の資格がないわけではない。先生が次女に疲れを取らせたくない、管理することが多すぎて大変だから、副という役職を与えたのだ。
学校の先生が次女のためにこれほど心を配るということは、次女がどれほど優秀で、先生に好かれているかの証だ。
しかし学校でこれほど先生に好かれている子供が、家では実の母親にこれほど無視されているとは、橋本東祐は冷笑する以外に何も言えなかった。
半月前、妻が次女に学校を辞めてアルバイトをさせようとしたことを思い出し、橋本東祐は冷や汗が出た。
本当に奈奈が勉強を続けたいと主張し、自分も支持したからよかった。そうでなければ、彼らは奈奈の人生を台無しにしていたところだった。
「奈奈、今日からは、学校のことは母さんに言わなくていい。母さんは忙しくて構う暇がない。お父さんに言いなさい。お父さんが考えてあげる。」
男は外、女は内、というのは彼らの家では通用しない。
今になって状況を知ることができてよかった。そうでなければ、次女が妻によってどれほど台無しにされていたか、想像もしたくない。
「うん。」橋本奈奈は口の中の肉を力強く噛んだ。今日の肉は特別に香ばしく、特別に美味しく感じられた。