橋本東祐がそう言ったのは、本当に決心がついたからだった。
妻の偏愛はもう一日や二日の話ではなく、しかも非常に深刻で、もし二人の娘を妻に任せたら、下の娘は間違いなく妻の手で台無しにされてしまうだろう。
橋本東祐が橋本絵里子を伊藤佳代に任せる勇気があったのは、まず伊藤佳代が元々橋本絵里子を可愛がっていたからで、伊藤佳代に橋本絵里子の面倒を見させれば、橋本絵里子が軽視されることを心配する必要がないからだ。
二つ目は、今日これほど多くのことが起きたが、橋本東祐は橋本絵里子が反抗期なだけだと思っていた。結局、思春期の子供はみんなそうだから。
本質的に、長女はまだ良い子で、彼が気を使う必要はなかった。
橋本東祐がここまで言ったので、伊藤佳代は反論できず、百二十円を手に取り、考えた末にポケットからさらに四十円を足して、長女に渡した。
「お母さん、二百円じゃなかったの?」前回より四十円少なくなっているのを見て、橋本絵里子は少し不機嫌になった。
伊藤佳代は呆れて笑った:「お父さんが言ったこと、もう忘れたの?私はまだ仕事がないし、この家はまだお父さんに頼っているのよ。百六十円でも少ないって言うの?お父さんは百二十円しかくれなかったのに、私が四十円足したのよ。」
伊藤佳代は以前は真面目な娘だったが、家で十五年も専業主婦をしていた。
突然社会に出て働けと言われ、伊藤佳代は心の中で居心地が悪く、不満だった。
このような事態になったのも、全て長女のことが原因だった。
事態が今日このような状況になり、伊藤佳代の心も快くはなかった。
伊藤佳代の心にも怒りがあることを察した橋本絵里子は急いで笑顔を見せた:「お母さん、怒らないで。私の成績はお母さんも知っているでしょう?もっと頑張らなければ、奈奈に追いつけないし、追い越してお母さんの面目を立てることもできないわ。今は外で参考書が売られているけど、高いのよ。家がこんな状態だから、お母さんにもうお金を無理に頼みたくないし、毎回の食費を少しずつ節約して、自分で買おうと思って。今回四十円減ったから、私の計画が狂っちゃって、参考書を買うのがまた遅れそう。お母さん、怒らないでね。」
「本当に参考書を買うの?」伊藤佳代は疑わしげに尋ねた。
前回の小説の本は、結局伊藤佳代に暗い影を残していた。