第037章 自分から名乗り出る

木下おじいさんの話を聞けば聞くほど、橋本奈奈には既視感が強くなっていった。肋骨が二本折れ、一本は肺に刺さりそうになったという。

前世であの大きな屋敷で殴り殺され、誰にも発見されずに苦しみながら死んでいった子供が白洲隆だったのか?

前世のこの時期、橋本奈奈は既に学校を辞めて出稼ぎに行っていた。戻ってきた時に、屋敷の中である子供が殴り殺されたと聞いた。とても悲惨な死に方だった。

あの連中は人を傷つけてしまったことに気付いて、まだ息のある被害者を放置したまま逃げ出してしまった。

他の人が発見した時には、既に一晩が過ぎていた。助けるどころか、遺体は冷たくなっていた。

この事件以来、橋本絵里子の通学は伊藤佳代が付き添うようになった。

橋本奈奈が橋本家に戻って一日も経たないうちに、伊藤佳代は給料を全部手に入れると、すぐに橋本奈奈を仕事に戻らせた。橋本奈奈はこの事件の詳細を聞く暇もなかった。

だから今世で生まれ変わっても、橋本奈奈はこの事件を覚えておらず、前世で亡くなった子供が木下おじいさんの外孫だったことも知らなかった。

「隆の怪我が重すぎて、数日前にようやく危険期を脱したんだ。今は元気がないものの、目は覚めた。まだ子供だから、しっかり養生すれば大丈夫だろう」

この数日間、白洲家と木下家の人々は白洲隆の容態を心配し、悲しみに暮れ、大騒ぎになっていた。

誰が白洲隆を救ったのかについて、両家はまだ詳しく尋ねる余裕がなかった。

昨日になって、白洲隆が目覚め、話せるようになり、木下家と白洲家はようやく安心し、白洲隆を救った人に感謝しようと思い出した。

白洲家と木下家は最初、白洲隆を病院に運んだ二人の警備員を見つけ、彼らに感謝しようとした。

しかし、警備員たちも軍人のイケメンで、正直な性格だったため、すぐに白洲家と木下家に、白洲隆の件は屋敷のお嬢ちゃんが発見し、彼女が彼らを呼んだからこそ白洲隆を救うことができたと明確に伝えた。

つまり、白洲家と木下家が本当に感謝すべき人は、このお嬢ちゃんだった。

白洲家と木下家が調べてみると、白洲隆を救ったのは橋本奈奈、橋本東祐の娘だと分かった。

この時、最も心が慰められたのは木下おじいさんだった。