「奈奈、どうしてそんなにお金を無駄遣いするの」橋本絵里子は不機嫌になった。彼女は橋本奈奈が少しばかりのお金を持っていることを知っていた。それは何年もかけて貯めたものだった。
彼女は本来、奈奈にそのお金を自分のために使わせて、華々しく高校に通わせようと思っていたのだ。
さっきまで喜んでいた橋本東祐は顔を曇らせた。「これのどこが無駄遣いだ。このお金の使い方は正しい!」
橋本東祐は知っていた。リサイクルショップから本を買い戻すのは、学校で新しく注文するよりずっと安上がりだ。このお金は無駄遣いどころか、正しく、価値があり、しかも節約になるのだ!
「聞くけど、そのお金はどこから手に入れたの!」伊藤佳代は橋本奈奈を引っ張った。「本を買うのにいくら使ったの、まだいくら残ってるの、出しなさい」
この生意気な娘め、まさかお金を隠していたなんて。
「何するんだ!」橋本東祐は橋本奈奈を自分の後ろに庇い、胸を張った。すると伊藤佳代は奈奈に近づく勇気を失った。「お金は俺が奈奈にあげたんだ」
しかし彼が渡したのはそれほど多くなかった。どうやら奈奈はそのお金を一度も使わずに、何年もかけて貯めていたようだ。今こそ、重要な時に役立つことになったのだ!
「奈奈、お金は足りてるか?本は一冊だけ買ったのか?足りないなら心配するな、パパに言いなさい。パパが買ってあげるから!」
橋本東祐はようやく気づいた。末っ子は妻からは一銭も余分にもらえそうにない。少しでもお金を持っていれば、妻に取り上げられてしまうのだ。
幸い、妻はこのお金のことを知らなかった。さもなければ、末っ子はリサイクルショップで本を買うアイデアも思いつかなかっただろう。
それに、長女と比べると、長女は彼からもらったお金を全部使い果たしただけでなく、小説なんかを買っていた。
こう比べてみると、橋本東祐は今まで黙々としていた末っ子に注目し始めた。
娘はどちらも可愛がるべきだが、五本の指だって長さが違う。末っ子は橋本東祐の印象では、成績が長女より少し良いこと以外に、二つ目の取り柄がなかった。
しかし今日というか最近、橋本東祐は末っ子が実は口が長女ほど上手くないこと以外は、長所が多いことに気づいた。特に考えが正しいだけでなく、頭の回転も速かった。
田中さんが末っ子の母親という立場を利用していなければ、末っ子をいじめることすらできなかっただろう。
案の定、橋本奈奈のその後の言葉で、橋本東祐はますますこの考えを確信した。
「いいえ、中一と中二の本は全部揃えました」
「どこにあるの!」伊藤佳代が真っ先に声を張り上げて状況を尋ねた。
彼女がそれらの本を見つけ出せば、橋本奈奈に一冊も残させないつもりだった。せいぜい義務教育を終えるための一年間だけ、本を読ませてやるつもりだった。それ以上は橋本奈奈に考えさせもしない!
「とにかく家にはありません」橋本奈奈は鼻を鳴らした。「私が読みたい本だけを持って帰ってきます」
彼女が本を家に持ち帰る時は、パパが家にいる時だった。パパの前では、ママは彼女の本を奪ったり、破いたりする勇気はなかった。
橋本奈奈の答えを聞いて、伊藤佳代は怒りで息を荒げたが、反対に橋本東祐は笑った。彼は末っ子の頭を撫でた。「それでいいんだ」
末っ子は田中さんとのゲリラ戦も学んでいた。よくやった、末っ子には橋本家の気骨があるな。
もし橋本奈奈が息子だったら、橋本家には後継ぎができていただろう。まさに生粋の兵隊ゴロだ!
橋本東祐は、まだ怒る面の皮のある伊藤佳代を見て言った。「田中さん、私が言ったことを覚えているだろう?奈奈は悪くない、私たちはしっかり育てないといけない」
橋本東祐の一言で、伊藤佳代と橋本絵里子は顔色を変えた。今や彼女たちは橋本奈奈に間違って仕事をさせることができないどころか、しっかり育てなければならない。何で育てるというの?!
橋本奈奈を育てたら、橋本絵里子はどうなるの?
四人家族で、今は橋本東祐一人だけが収入があり、家のすべての貯金は伊藤佳代によって使い果たされていた。
一人が稼ぎ、四人が使う。そのうち二人が大きな出費をする。伊藤佳代は心の中で考えながら、焦りで直接火が出そうになり、その晩、口の周りに一面の水疱ができた。
心中穏やかでない伊藤佳代は、この事を橋本東祐に話すこともできず、一人で焦るしかなかった。
翌朝、伊藤佳代の口いっぱいの水疱を見て、橋本東祐は妻が火照っただけだと思ったが、二人の娘は心の中で、伊藤佳代がなぜこうなったのかを理解していた。
橋本奈奈は自分のことで精一杯だった。しかも彼女はいつも犠牲にされる側だった。伊藤佳代がこの時どれほど焦っていても、橋本奈奈は助けようがないと表明した。
だから開学前日、橋本奈奈はいつも通り斎藤家に復習に行った。伊藤佳代を避けるため、橋本奈奈は昼食も家に帰らず、十円でパンを買って我慢した。
夜になると、橋本東祐の退勤時間に合わせて、橋本奈奈は家に帰った。
二日間復習して、橋本奈奈は自分の現在のレベルがますます分かってきた。考えた末、橋本奈奈は橋本東祐と話し合う必要があると感じた。「パパ」
「何かあるのか?入って話そう」
橋本東祐は部屋の椅子を指さし、橋本奈奈はそこに座った。「パパ、ある状況について報告しないといけません。ママの態度は、パパも知っているでしょう。この夏休み...パパ、今度の新学期、私の成績は前ほど良くないかもしれません。むしろちょっと悪いかも。パパ、中間テストの成績は見ないで、期末の成績を見てもらえませんか?」
橋本奈奈は半学期の時間だけでは成績が追いつかないかもしれないことを本当に心配していた。そしてまた母親に騒がれて、父親が彼女の進学を許可しなくなることを恐れていた。
橋本東祐は少し考えて答えた。「いいだろう。でも奈奈、覚えておいてくれ。お前は私に軍令状を立てたんだ。中間テストは見ないが、期末には満足のいく答えを出してもらわないと。そうでなければ、私もお母さんに説明できない」
子供を教育するには、緩急をつけなければならない。
厳しすぎてもいけないが、緩すぎてもいけない。
橋本絵里子の高校入試の失敗は、橋本東祐に長い間反省させた。彼は夫婦で長女を信頼しすぎ、緩めすぎたからこうなったと感じていた。
同じ過ちを、末っ子に対して二度と繰り返したくなかった。
「はい」橋本奈奈は橋本東祐の考えは知らなかったが、彼の言葉を心に留めた。
どうあれ、彼女は自分のために半年の時間を勝ち取ることができた。
「パパ、じゃあ復習に行きます」せっかく勝ち取ったチャンスを、橋本奈奈は大切にし、すぐに部屋に戻って本を読んだ。
「ママ」橋本絵里子は伊藤佳代と台所にいて、心配そうな目つきをした。
「はぁ...」伊藤佳代はため息をついた。「焦らないで、ママが何とかするから。明日あの生意気な子は学校が始まるから、この一年のことはもう考えないで。ただし、あなたが高校に行ってからは、節約して生活しないといけないわ。それと、橋本奈奈がお金を持っていることを知らなかったの?」
自分が節約しなければならないと聞いて、橋本絵里子は気分が悪くなった。「パパはいつも私と奈奈に数十円しかくれないから、奈奈も全部使ったと思ってました。貯金していたなんて知りませんでした」
「これからはしっかり見張っていなさい。絶対に彼女にお金を持たせちゃダメよ。今回のことを見てみなさい。彼女がお金を持っていなければ、本も買えないし、高校入試で良い成績が取れなければ、仕事に行かせる計画が一年遅れるだけなのに」