第41章 認めようとしない

橋本絵里子は食器を洗っている手を止め、居心地の悪そうな表情を浮かべた。「関係ないわ。奈奈が熱を出したことと私に何の関係があるの」

「でも奈奈が言ってたけど?」奈奈の言葉を、伊藤佳代は真剣に受け止めていた。自分がそんなことをするはずがないし、橋本さんならなおさらだ。家族は四人しかいないのだから、長女しかいない。

「奈奈の言うことが全て正しいわけ?ママ、あの日の奈奈の額がどれだけ熱かったか忘れたの?奈奈は病気で頭がぼーっとしてて、夢を現実と勘違いしただけよ。奈奈は疑り深いけど、ママまで奈奈みたいになっちゃダメよ」

橋本絵里子は手の水を振り払って言った。「ママ、考えてみて。私が付属高校に行くことで、パパは家のお金を全部使ったって知ったばかりでしょう。木下おじいさんのことまでパパに知られたら、どれだけ怒るか分かるでしょう。今はパパの怒りを少しでも抑えるために、私たちはできるだけ上手くやらないといけないの。さっきパパも奈奈の夢のことは触れなかったでしょう。ママも気にしないで、特にパパの前では言わないで。そもそもなかったことを、奈奈が寝言で言っただけなのに、ママまで余計な騒ぎを起こして、パパを怒らせたいの?」