第41章 認めようとしない

橋本絵里子は食器を洗っている手を止め、居心地の悪そうな表情を浮かべた。「関係ないわ。奈奈が熱を出したことと私に何の関係があるの」

「でも奈奈が言ってたけど?」奈奈の言葉を、伊藤佳代は真剣に受け止めていた。自分がそんなことをするはずがないし、橋本さんならなおさらだ。家族は四人しかいないのだから、長女しかいない。

「奈奈の言うことが全て正しいわけ?ママ、あの日の奈奈の額がどれだけ熱かったか忘れたの?奈奈は病気で頭がぼーっとしてて、夢を現実と勘違いしただけよ。奈奈は疑り深いけど、ママまで奈奈みたいになっちゃダメよ」

橋本絵里子は手の水を振り払って言った。「ママ、考えてみて。私が付属高校に行くことで、パパは家のお金を全部使ったって知ったばかりでしょう。木下おじいさんのことまでパパに知られたら、どれだけ怒るか分かるでしょう。今はパパの怒りを少しでも抑えるために、私たちはできるだけ上手くやらないといけないの。さっきパパも奈奈の夢のことは触れなかったでしょう。ママも気にしないで、特にパパの前では言わないで。そもそもなかったことを、奈奈が寝言で言っただけなのに、ママまで余計な騒ぎを起こして、パパを怒らせたいの?」

奈奈があの雨の夜に起きたことを話し出した時、橋本絵里子は心臓が飛び出しそうなほど驚いた。

幸い父親がそれ以上追及しなかったが、もし続けていたら、自分が本当のことを隠せたかどうか分からない。

橋本絵里子は橋本東祐を恐れていたが、母親の伊藤佳代は怖くなかった。

橋本絵里子に説得され、脅されたりした後、伊藤佳代は確かに奈奈の言葉が本当なのか寝言なのかを追及するのをやめた。

今は家に悩み事が十分あるのだから、これ以上この件を追及すれば際限がなくなる。

伊藤佳代が食事の声をかけた時、最初、橋本東祐は出てくるつもりはなかった。伊藤佳代のことで頭に来ていたからだ。

しかし医者が次女は栄養失調だと言っていたことを思い出し、橋本東祐は奈奈を呼んだ。「奈奈、お前は今が成長期だ。自分の体に意地を張るな。二人で食事に行こう」

「はい、パパ」

奈奈はすぐに承諾した。誰とでも仲たがいしても、自分自身とは仲たがいできない。