第22章 テスト

「私が遅れているって？あなたが進歩してみせてよ！はっきり言うわ。あなたが伊藤家のやり方を奈奈に押し付けるなら、許さないわよ！」

そう言い放つと、橋本東祐は怒りに任せてベッドから起き上がり、枕と布団を持って書斎に行って寝ることにした。もう伊藤佳代と同じベッドで寝る気にはなれなかった。

伊藤家の人がどうしようと構わないが、橋本東祐の娘に伊藤という姓を持つ者がそんな意地悪をするのは許せない！

「あ、あなた、どこに行くの？」伊藤佳代は呆然とした。橋本さんがあの生意気な娘のためにこんなにも怒って、別々に寝るなんて。

翌日、橋本東祐は何事もなかったかのように振る舞っていたが、伊藤佳代の目は赤く腫れていて、明らかに泣いていた様子だった。

橋本奈奈の始業式は橋本絵里子より早く、朝早くから、橋本東祐が買ってきた油条を手に、豆乳を飲みながら、カバンを背負って斎藤家に寄って教科書を全部持って学校へ向かった。

もう顔も覚えていないクラスメートたちを見て、橋本奈奈は少し不安になった。自分の席がどこだったかも思い出せない。

やっとのことでクラスの表示を頼りに自分のクラスを見つけたが、教室の入り口に立った途端、完全に呆然としてしまった。

「あら、橋本奈奈さんじゃない。どうして入り口で立ち止まっているの？早く入りなさい」田中先生は橋本奈奈を見て、笑顔を浮かべた。

橋本奈奈は学年でいつも上位3位以内、クラスではトップの成績を収めていた。そんな優秀な生徒を、嫌いな先生はいないだろう。

田中先生に促されて、橋本奈奈は意を決して教室に入った。

クラスメートたちのことは覚えていなかったが、田中先生のことは覚えていた。

今は9年間の義務教育期間だ。前世では成績が良かったのに中学3年で学校を辞めてしまい、田中先生は何度も家庭訪問に来てくれた。

田中先生が来るたびに、父は学校に戻るように言い、母は反対し、自分は居心地が悪くなって、多くの愚かな行動を取り、この田中先生の心も傷つけてしまった。

中学校の担任の田中先生に再会して、橋本奈奈はとても申し訳ない気持ちになった。

教室に入ってから、橋本奈奈が何か言う前に、田中先生が先に言った：「奈奈さん、いつもの席に座りなさい」

田中先生は指さしながら、2列目の右側の席を示した。

その席は黒板に近く、つまり先生にも近い位置で、橋本奈奈の席は真ん中にあり、文字が最も見やすい場所だった。

間違いなく、この席は先生が優秀な生徒のために特別に用意した席だった。

橋本奈奈はほっと息をつき、カバンを背負ったまま田中先生が指示した席に向かい、教科書を机の中に入れた。

橋本奈奈が座ってしばらくすると、クラスメートたちが次々と来始め、田中先生が全員の席を決めていったが、橋本奈奈の隣の良い席はまだ空いたままだった。

「夏休みが終わったので、抜き打ちテストを行います。みなさん、教科書は全部しまって、机の上に不要なものを置かないように。急いでください」

田中先生のこの言葉に、教室中から悲鳴が上がった。

当時よく言われていた言葉がある：「テスト、テスト、テスト、先生の宝物。点数、点数、点数、生徒の命」

橋本奈奈も含めて、田中先生のこの言葉を聞いた途端、顔が真っ青になった。

誰も学年トップの橋本奈奈が、この時感じている不安や恐れ、後ろめたさを理解できなかった。

彼女はたった数日間中学校の内容を復習しただけで、今すぐテストを受けて、以前のような良い成績を取れるはずがない。

その瞬間、橋本奈奈は怖くて冷や汗が出てきた。

田中先生は数学の先生なので、当然テストするのは数学だった。

数学の試験用紙を受け取ると、橋本奈奈は深呼吸を何度かして、ペンを握りしめて解き始めた。

橋本奈奈には数学の試験を解く明確な順序があった。試験時間が足りなくなるのを防ぐため、まず順番に解いていき、ある問題で5分考えても解き方が思いつかない場合は、一旦飛ばすことにしていた。

解ける問題を全て解き終わり、試験用紙全体を確認してから、解けなかった問題に戻って考えることにしていた。

幸い、橋本奈奈が詰まる問題はそれほど多くなかった。ただし、以前なら考えなくても解けた問題も、今は解き方をしっかり考えなければならず、暗算や筆算の能力も以前ほど高くなかった。

試験用紙を全部解き終わった時には、橋本奈奈の背中の服は汗で濡れ、べたべたと背中に張り付いていた。

橋本奈奈は一度確認する時間しかなく、ベルが鳴るとすぐに田中先生が答案を集めた。

授業が終わるとすぐに、橋本奈奈はトイレに駆け込み、顔をしっかりと洗った。

数学のテストが終わったが、他の主要科目もきっとテストから逃れることはできないだろう。

始業式の初日、橋本奈奈はこうして忙しく、頭がぼんやりしたまま数学、国語、英語という主要3科目のテストを受けた。

テストが終わった後、橋本奈奈の顔色は悪く、どうやって橋本家に帰ってきたのかも覚えていなかった。

「おや、今日は早く帰ってきたわね？」伊藤佳代は橋本奈奈が帰ってくるのを見て、顔をしかめ、目には嘲笑の色が浮かんでいた。「お父さんはまだ帰ってきてないのよ！」

以前はあの生意気な娘、いつも橋本さんの帰宅時間に合わせて帰ってきたじゃないの？

伊藤佳代の声に刺激され、橋本奈奈は我に返り、背中の重たい教科書のことを思い出すと、何も言わずにウサギのように走り出し、伊藤佳代には風の音だけを残して自分の部屋に逃げ込み、さらに鍵をかけた。

「お母さん」伊藤佳代が追いかけようとするのを見て、橋本絵里子は急いで止めた。「お父さんまだ怒ってるわ。奈奈が分かっていないのは仕方ないけど、お母さんもずっとお父さんと喧嘩したままでいたくないでしょう？」

家族の中で収入があるのはお父さんだけ。もしお母さんがお父さんと喧嘩して仲が悪くなり、お父さんが給料をお母さんに渡さなくなったら、自分はどうすればいいの？

「今年は、奈奈がアルバイトをしてお父さんお母さんの負担を減らすことはできないわ。お母さん、もうこのことでお父さんと喧嘩しないで。お母さんが不愉快な思いをするだけよ」

「あなたの言う通りね。お父さんと十数年暮らしてきて、こんなに激しく喧嘩したことなんてなかったわ。あんな生意気な娘のために、お父さんとの仲を壊すなんて、馬鹿らしいわ」伊藤佳代は落ち着いてきた。「あなたが言ってたでしょう？中学3年になると、教科書の内容が難しくなって、前みたいに良い成績は取れないって。私たちは待ってればいいのよ、彼女の成績がどうなるか。どうせ彼女は自分からお父さんと約束したんだから、成績が悪かったら、早晚まじめに仕事を探さなきゃいけなくなるわ！」

やっと伊藤佳代を説得できたものの、橋本絵里子は口を閉ざして、中学3年の内容は自分には難しいけど、橋本奈奈にとって難しいのか簡単なのか、それは分からないということを伊藤佳代に言わなかった。

橋本絵里子は思わず祈り始めた。橋本奈奈が自分やクラスの他の女子のように、中学3年になると頭が回らなくなり、特に数学や化学でつまずいて、良い成績が取れなくなることを願った。

「奈奈、お父さんだよ」1時間後、仕事から帰ってきた橋本東祐は、すぐに橋本奈奈を探しに来た。

「お父さん」部屋のドアを開けて、橋本奈奈は橋本東祐を中に入れた。

橋本東祐は眉をひそめた：「奈奈、あなたの部屋、こんなに狭いの？」