第046章 誰も眠れない

部屋が静かになったのを聞いて、橋本東祐と伊藤佳代はようやくイヤホンを外した。

二人の年齢を合わせると百歳近くになるのに、まだこんな方法で娘たちの会話を盗み聞きしなければならないなんて、夫婦の顔は少し火照っていた。

しかし長女の言葉を思い出すと、伊藤佳代は誇らしげだった。「ほら見てよ、私が前から言ってたでしょう。絵里子は素直で分別のある子だって。彼女の心は優しいのよ。今日の奈奈の件で、絵里子は確かに少し焦っていたけど、彼女の出発点は良かったの。妹が悪い方向に行かないようにと願っているだけなのよ」

「家の長女として、そういう心の広さと思想的な自覚を持つべきだ」橋本東祐の目に満足げな表情が浮かんだ。

橋本絵里子の先ほどの言葉は、上では両親への配慮を示し、下では妹への心配と忠告を表していた。

姉として、妹を諭すのは当然のことだ。

伊藤佳代に考えを完全に誘導された橋本東祐は、橋本絵里子が長女として、口先だけで全ての仕事を橋本奈奈に押し付けていることに全く気付いていなかった。

長女は口だけではなく、橋本絵里子自身がなぜ行動しないのか?

要するに、橋本絵里子は口先だけで、実際の行動は何一つしていないのだ。

「さあ、寝る時間だ」娘たちが寝たのを聞いて、橋本東祐は伊藤佳代の肩を叩き、二人で部屋に戻った。

二人が同じベッドに横たわったとき、伊藤佳代は突然尋ねた。「橋本さん、私があなたに男の子を産んであげられなかったこと、本当に気にしていないの?」

伊藤のお母さんの当時の言葉は、伊藤佳代の心の中でわだかまりとなっていた。

橋本絵里子さえも知らないことだが、伊藤のお母さんの言葉が伊藤佳代に与えた影響がどれほど大きかったのか。

伊藤のお母さんは伊藤佳代が徳を積んでいないから男の子を産めない、どこの家に嫁いでもその家の災いになると笑った。伊藤佳代が数ヶ月後に橋本奈奈の母乳を断ったのは、橋本東祐との間に第三子を設けようと考えていたからだ。

罰金を払えばいい、とにかく男の子を産みたい、自分は福があるということを証明したい、どうして徳を積んでいないと言えるのか。

橋本東祐が反対したのだ。二人の娘を育て上げ、橋本絵里子に婿養子を迎えれば同じことだ、もう男の子は要らないと。