部屋が静かになったのを聞いて、橋本東祐と伊藤佳代はようやくイヤホンを外した。
二人の年齢を合わせると百歳近くになるのに、まだこんな方法で娘たちの会話を盗み聞きしなければならないなんて、夫婦の顔は少し火照っていた。
しかし長女の言葉を思い出すと、伊藤佳代は誇らしげだった。「ほら見てよ、私が前から言ってたでしょう。絵里子は素直で分別のある子だって。彼女の心は優しいのよ。今日の奈奈の件で、絵里子は確かに少し焦っていたけど、彼女の出発点は良かったの。妹が悪い方向に行かないようにと願っているだけなのよ」
「家の長女として、そういう心の広さと思想的な自覚を持つべきだ」橋本東祐の目に満足げな表情が浮かんだ。
橋本絵里子の先ほどの言葉は、上では両親への配慮を示し、下では妹への心配と忠告を表していた。