第083章 別の方法で説得する

伊藤佳代が部屋を出るとすぐに、橋本奈奈は深いため息をついた。本当に危なかった。

今日、木下おじいさんは彼女が作文コンテストに参加したことを知って、ちょうど作文を置いていくように言った。木下おじいさんが自分の作文ノートを持っている理由は分からないが、橋本奈奈はそれほど気にしていなかった。

どんなことがあっても、木下おじいさんは母親のように、彼女の作文を他人に写させたり、しかも原作者である彼女自身に使わせないようなことはしないだろう。

母の考えは本当におかしくなってきている。前世で彼女が車にはねられた時、母が喜んで「絵里子の治療費が手に入った、腎臓も手に入った」と言ったのも無理はない。

橋本東祐に部屋に連れ戻された後、伊藤佳代は橋本東祐に怒鳴った。「橋本さん、あなたバカなの?私たちが絵里子にお金を渡して作文の本を買わせるより、直接奈奈の作文を見せた方がいいじゃない。」

「ダメだ、あれは奈奈が書いたものだ、奈奈のものだ。絵里子は使えない。この件が他人に知られたら、恥ずかしくないのか?絵里子が恥をかくのも平気なのか?絵里子の将来のことも考えないと。絵里子は将来、婿を取れるのかどうか。」橋本東祐は頭を抱えながら言った。

「誰にも知られなければいいじゃない。」

「へぇ、これが間違ったことだと分かっているから、人に知られたくないんだね?」橋本東祐は皮肉を込めて言った。「人に知られないようにしても、この件は隠し通せるのか?大騒ぎにならないことを祈るだけだ。」

絵里子は学校で警告処分を受けたのだ。付属高校の全員が知っているとは言わないまでも、少なくとも絵里子のクラスで、知らない人がいるだろうか?

この状況を考えると、橋本東祐は頭が痛くなった。「この事態で、絵里子はそのクラスでやっていけるのか、他人に軽蔑されないだろうか。」

カンニング、しかも実の妹の作文を写したのだ。橋本東祐は考えただけで顔が赤くなった。

「い、いや、そんなことは…」伊藤佳代は戸惑って、言葉を詰まらせた。「た、ただの…それに作文は奈奈のものだし、これは私たち家族の問題よ。他人に何の関係があるの?どうして絵里子を軽蔑するの?」