「授業の前に、みなさんにお知らせがあります」朝の自習時間に、田中先生は元気よく教壇に立って言いました。「先日、学校から五人の生徒が作文コンクールに参加しましたが、嬉しいことに、その中の二人が入賞しました。一人は三位、もう一人は一位です。三位の生徒は他のクラスの生徒ですが、一位の生徒は私たちのクラスの生徒なんですよ!」
田中先生は木下先生と同じように喜んでいました。作文コンクールで一位を取る生徒を教えることができたのは、とても誇らしいことでした。
もちろん、橋本奈奈が数学コンクールで賞を取っていたら、田中先生はもっと誇らしく思ったことでしょう。
「一位?!誰だろう?」
「うちのクラスからは井上雨子さんしか作文コンクールに参加してないよ。絶対井上雨子さんだよ」
「すごい!井上雨子さんってめちゃくちゃ凄いじゃん。作文コンクール一位って、学校の国語のテストで一位取るよりも難しいのに。全然気付かなかった」
クラスメートたちの間で議論が沸き起こり、多くの人が井上雨子だと予想していました。ただ一人、白洲隆だけが顎を上げ、何か知っているような表情で黙って笑っていました。
「今回の作文コンクールで一位を取ったのは橋本奈奈さんです!」田中先生は嬉しそうに発表しました。「橋本さんはこんなに素晴らしい作文を書いたのに、どうして誰も橋本さんだと予想しなかったのでしょうか?」
「……」
田中先生の言葉が教室に響き渡ると、教室は水を打ったように静まり返り、多くの生徒が呆然としていました。
確かに以前から、橋本奈奈も作文コンクールに参加したという噂は広まっていましたが、彼女は学校の予選にも参加せず、特別な作文指導も受けていませんでした。そのため、たとえ多くの人が橋本奈奈も五人の一人だと噂していても、みんな内心では冗談として捉え、橋本奈奈が恥をかくのを待っていたのです。
そして今、唯一の一位が、まさか本当に橋本奈奈だったとは?
「そうか、今学期の二回の国語のテストで、橋本奈奈の作文はすごく良かったよね。木下先生も黒板に貼り出していたし。私も読んだけど、本当に上手くて、作文の参考書に載っているものよりも良かった」
「そうだよね、橋本奈奈の一位は当然の結果だよ。井上雨子にはそんな実力ないもん」