第070章 待遇は上がっている

橋本奈奈は、橋本東祐が自分に白洲隆の家庭教師をさせるために偉人の言葉まで持ち出したのを聞いて、口元を引き攣らせ、笑うことができなかった。「分かりました」

「よし、じゃあ勉強に励むんだぞ。邪魔はしないから、家のことは全部お母さんに任せておけ」橋本東祐は少し興奮した様子で橋本奈奈の肩を叩き、それから伊藤佳代にも念を押して、家にいる時は絶対に奈奈の勉強の邪魔をしないようにと言い聞かせた。

その言葉を聞いた伊藤佳代は、非常に不満そうだった。「私は一日中仕事で疲れ果てているのに、家の仕事がこんなにあって、あちこち忙しいのに、なぜ娘に手伝わせちゃいけないの?橋本さん、あなたの言い方がおかしいと思わない?」

「何がおかしいんだ。他の家だってこうやって暮らしているじゃないか?」橋本東祐は呆れて笑った。職場には昼間仕事をして、夜は家に帰って子育てをする女性の同僚がたくさんいるのだ。

「他の人は姑が子育てを手伝ってくれるけど、私は二人も産んだのに、誰が手伝ってくれたの?!」他人と比べられても、比べようがないではないか。

「でもあの時、あなたは仕事をしていたか?子育てだけで、奈奈をちゃんと育てたのか?」ある事については、橋本東祐は言わなくても知っているし、忘れてもいなかった。

奈奈に粉ミルクを飲ませるのにお金がかかりすぎるから、伊藤佳代が惜しんで、そうでなければ伊藤佳代は奈奈の世話すらしたくなかった。適当に授乳するだけだった。

橋本奈奈は半年も母乳を飲めず、伊藤佳代は授乳が面倒だと言って、すぐに断乳してしまった。

幸い団地の近くで羊を飼っている人がいて、その羊は子羊を産んだばかりの母羊で、羊乳があった。奈奈を可哀想に思った人が、羊乳を煮て飲ませてくれた。

時々伊藤佳代がやろうとしないので、結局は橋本東祐が奈奈に飲ませていた。

子育てなんて、伊藤佳代は何もしていなかった。

橋本奈奈は部屋のドアを閉めていても、両親の喧嘩の声が聞こえてきた。

橋本奈奈は唇を噛んで、何も言わず、自分のすることだけをしていた。

どうせ以前は、家で家事を手伝っていて、本を読む時間がなかった。

今は白洲隆の家庭教師の仕事を引き受けたので、どんなことがあっても、少なくとも月曜から金曜までは復習の時間があるのだから、得をしたと言える。