橋本絵里子が走り去るのを見て、橋本奈奈は「ふふっ」と笑い、目に冷たい光が走った。彼女はこうなることを知っていた。
「新年おめでとう」入学手続きの日、橋本奈奈は学費を納め、クラスの男子に本を運ばせ、配布する人員を手配した。
本来これは学級委員長の仕事だったが、委員長は風邪を引いていたらしく、初日は来ていなかった。学費も人に持ってきてもらっていたため、副委員長の橋本奈奈が代わりに仕事をこなすことになった。
「みなさん、本を受け取ったら、開いて確認してください。問題があれば私のところに報告して、交換してもらいましょう」
このような問題はめったに起きないが、万が一に備えて、橋本奈奈は一応言っておいた。
「ふん、威張っているわね」橋本奈奈が教壇に立って指示を出している様子を見て、井上雨子は酸っぱい口調で言った。
手塚昭は井上雨子の度々の気まぐれな態度にもう慣れてきていた。「今年の正月、あなたが飲んだお酢は、きっと古くなった酢だね」
「どういう意味?」井上雨子は一瞬戸惑い、理解できなかった。
「酸っぱい」手塚昭は嫌そうに鼻をしかめた。「でも、私の方まで酸っぱくしないでよ。私は酸っぱいものは好きじゃないから」そう言うと、手塚昭は井上雨子を無視して、橋本奈奈の本とノートの配布を手伝いに行った。
「あなたこそ酸っぱいわよ」井上雨子はようやく理解した。これが分からなかったら、国語の係なんて務まらないだろう。
「これ、あげる」白洲隆は橋本奈奈の机の上に、包装されリボンで飾られた箱を置いた。
「私に?」橋本奈奈は眉を上げた。「この正月、どこにいたの?団地で見かけなかったけど」
「団地にはいなかった。海外旅行に行ってたんだ。僕の靴見た?今海外で一番人気のスニーカーだよ。すごく高かったんだ」白洲隆は自慢げに足を上げ、橋本奈奈によく見えるようにした。
「旅行で正月を過ごすなんて、かなりモダンね」古い世代の考え方では、21世紀になっても多くの家族が家で団欒して食事をすることを選んでいた。
今はまだ20世紀末なのに、白洲家の人々は本当に考え方が進んでいる。