第113章 また心が軟らかくなった

しかし、この時、斎藤のお父さんを説得していた斎藤花子は、斎藤昇にとってこの例外が一度起これば、それが永遠の「例外」になってしまうことなど、想像もしていなかった。

「ハックション」そのまま寄りかかって一晩中眠っていたため、予想通り伊藤佳代は風邪を引いてしまった。幸い熱は出なかったものの、鼻水とくしゃみは止まることを知らなかった。

「お母さん、温かいお茶をどうぞ」伊藤佳代が鼻をかむ音を聞いて、橋本絵里子は眉をしかめながら、しぶしぶ温かいお茶を注いでやった。

伊藤佳代は具合が悪くて目が赤くなっていた。「絵里子、私から離れていなさい。風邪をうつしてしまうから」

温かいお茶を飲んでも、伊藤佳代の体の不快感は少しも和らがなかった。

「お母さん、薬飲んだ?」

「まだよ」

「取ってくるわ」橋本絵里子は走って探しまわった。「お母さん、家にあるのは前に奈奈が使った熱さましの薬だけみたい。風邪薬はもうないみたい。お母さん、お金ちょうだい。買いに行ってくるわ」

「……」伊藤佳代は長いため息をついた。「もういいわ。ただの風邪よ。水をたくさん飲めばすぐ良くなるわ」

そのわずかなお金を惜しんで買わなかっただけじゃないか。

そうでなければ、仕事帰りに道で数錠買って飲めばよかったのに。

この時、伊藤佳代は本当に正月にお金の大半を気前よく使ってしまったことを後悔していた。

今や伊藤佳代は橋本東祐の態度が読めなくなっていた。手持ちのお金は橋本絵里子の一ヶ月の生活費を何とかまかなえる程度で、学費はどう工面しても足りなかった。

橋本東祐と結婚して何年も経つが、伊藤佳代はこれほどまでに家にお金がなく、手持ちがきつい思いをしたのは初めてだった。

「お母さん?お父さんは私の学費を出してくれないの?」

「あなたのお父さんのことは、本当に何も言いたくないわ。私がなぜ風邪を引いたと思う?あの人は冷たすぎるわ、心が硬すぎるのよ」橋本さんと何年も一緒にいたのに、ドアの外で一晩中寝かせて、上着一枚もかけてくれなかった。橋本さんの良心はどこにいったの!

「じゃあどうするの?明後日は始業式で、明日には学校に行かなきゃいけないのに!」橋本絵里子は目が赤くなり、泣きそうになった。「学費がないなら、もう学校なんて行かないわ。学費を滞納するなんて恥ずかしいことはできない!」