斎藤昇は表情を引き締め、手を合わせて膝の上に置き、真面目な様子で橋本奈奈を見つめた。「自分の家で本を読むのに、何か変なことでもあるのか?」
「いいえ、全然!」橋本奈奈は兵士のように直立不動の姿勢を取り、何度も首を振った。彼女は斎藤家の人間ではないのに斎藤家の物置に入れるのだから、斎藤お兄さんならなおさらだ。
でも、どこか少し変な感じがするのは気のせいだろうか?
一瞬頭が真っ白になった橋本奈奈は、斎藤昇の威圧感に圧倒され、頭が働かないどころか、反応も鈍くなってしまい、普段の機転の利く落ち着いた様子は微塵も見られなかった。
「問題ないなら、こっちに来て本を読もう」斎藤昇は自分の隣の椅子を少し引いて、橋本奈奈に座るよう促した。
斎藤昇の注目を浴びて、橋本奈奈はとても緊張していた。体が硬直しているだけでなく、歩く時も手足が同時に動く不自然な状態だった。
橋本奈奈が自分が憧れの人の前でまた恥ずかしい姿を見せてしまったことに気付いた時、顔はリンゴよりも赤くなっていた。
橋本奈奈はこっそりと斎藤昇を見やり、彼が既に本に注意を戻していることを確認すると、やっと安堵の息をつき、慌てて不自然な歩き方を直し、最速で着席した。これ以上恥をかかないようにするためだった。
しかし橋本奈奈が座ってしばらくすると、もっと気まずい事態が待ち受けていることに気付いた。
彼女と斎藤昇の椅子はかなり近く、今は冬で橋本奈奈は厚着をしているにもかかわらず、隣に座っている斎藤昇の太腿から漂ってくる熱を感じ取ることができ、それが自分に影響を与えていた。
橋本奈奈は斎藤昇を横目で見た。斎藤お兄さんは冷たそうに見えるのに、体温がこんなに高いなんて。将来彼の奥さんは冬でも湯たんぽの心配をする必要がないだろう。まさに天然の人体湯たんぽだ。
そう考えながらも、橋本奈奈の居心地の悪さは変わらなかった。
前世では、橋本奈奈は年増だったが、死ぬまで処女のままだった。男性との付き合い経験が少なく、ましてや男性とこんなに近い距離で過ごすことなどなかった。
初恋の田中勇でさえ、手を繋いだことがあるだけで、それも人目を気にして橋本奈奈が恥ずかしがって振り払ってしまったほどだった。