「ふん、何が得意になることがあるの?中学の試験で一位を取っただけじゃない。本当の実力があるなら、大学入試でも一位を取って、東京大学や東大に入ってみなさいよ」断られたおばさんは不機嫌になり、言葉が少し荒くなった。
彼女の言葉には嫉妬が含まれていたが、本当に橋本奈奈に自分の孫に無料で家庭教師をしてほしかったのだ。
しかし、橋本奈奈はそんなことは全く気にしていなかった。高校のことが決まってからは特に嬉しく、橋本東祐が帰ってきたらこの良い知らせを伝えようと待っていた。
禍福は糾える縄の如しという言葉通りだったのかもしれない。
橋本奈奈の良い気分は半日も続かず、悪い知らせを聞くことになった。
「奈奈ちゃん、お母さんは家にいる?」橋本東祐の同僚が慌てた様子で橋本家に駆け込んできた。伊藤佳代は見当たらず、橋本絵里子と橋本奈奈の二人だけがいた。
今日、橋本東祐が職場で娘が中学の試験で一位を取ったと話したばかりだったので、同僚は橋本奈奈の名前を呼んだ。
「母は仕事に行っていますけど、どうかしましたか?」橋本奈奈は少し戸惑いながら「急ぎの用事ですか?よければ、母の職場まで案内しますけど」
「お父さんが事故に遭ったんだ!」
「父が?」
「父さんがどうしたの!」橋本絵里子が飛び出してきた。
「荷物を配達中に車にぶつかられて、今病院にいるんだ。」
「!」橋本絵里子と橋本奈奈は驚愕し、橋本絵里子は目に涙を溜め、一粒一粒こぼれ落ちた。「じゃあ、父さん大丈夫なの?死んじゃってないよね?」
「ばか、何を言ってるの!」橋本奈奈は橋本絵里子を睨みつけた。「父の怪我は重いんですか?手術が必要なんですか?母の署名が必要なんですよね?今すぐ母を探しに行きます。」そう考えながら、万が一のために、今日もらったばかりの六千円も持っていった。
「そうだ、手術が必要なら、お母さんの署名が必要だ。」同僚は、こんなに小さな橋本奈奈が素早く反応し、多くのことを理解していることに驚いた。逆に二歳年上の橋本絵里子は、知らせを聞いて泣くことしかできず、何も分からなかった。
橋本奈奈は最速で伊藤佳代を見つけ、母娘三人で急いで病院に向かった。