「いいわよ、うちのことはあなたに任せるわ。あなたの言う通りにするわ」伊藤佳代は笑った。橋本東祐がそう言ってくれたということは、少なくとも心が動いているということだと分かっていた。
橋本奈奈が不満そうでも、橋本東祐は必ず奈奈を説得して、この件を承諾させようとするだろう。
橋本東祐が必ず奈奈を説得してくれると分かっていたので、伊藤佳代は自然と口を出さずにいられた。それに、奈奈の前で悪い人になるのは、橋本さんにやってもらった方がいい。橋本さんが言ったように、あの生意気な娘は母親である自分のことを認めなくなりそうだから。
やっとのことであの生意気な娘を育て上げたのに、あと数年もすれば学校を卒業して働き出すだろう。
もしあの生意気な娘が本当に自分を母親として認めなくなったら、奈奈が稼いだお金を全部自分のものにできるだろうか?
これだけ長い間投資してきたのだから、この娘を育てるのにかかったお金は全部取り戻さないと。
伊藤佳代は満足げに横になって眠りについたが、橋本東祐はベッドの上で寝返りを打ち続け、なかなか眠れなかった。胸が締め付けられるような不快感に苛まれていた。
こんなことをするのは奈奈に申し訳ないと橋本東祐は感じていたが、しかしこうしなければ、全ての貯金を使い果たしても橋本絵里子の勉強環境を整えることができないかもしれない。それは彼が十数年かけて必死に稼いで貯めたものなのだ。
この件で、橋本東祐は一晩中眠れず、夜明けまでずっと寝返りを打っていた。
橋本東祐とは対照的に、この夜、伊藤佳代はとてもよく眠れて、翌日は顔色も良かった。
橋本絵里子が起きてきたとき、伊藤佳代を見つめると、伊藤佳代は絵里子に微笑みかけ、物事が解決したことを示した。
すぐに、橋本絵里子の顔は明るくなった。「お母さん、友達に会いに行ってくるわ。この夏休みを無駄にしないように、今日にでも自分がどんな仕事をするか決められそう」
「ええ、気を付けてね」伊藤佳代は頷き、そしてポケットから四十円を取り出した。「お腹を空かせないでね」
「お母さん、本当に優しい!」四十円を受け取った橋本絵里子は嬉しそうに伊藤佳代の頬にキスをした。