第141章 嘆き

橋本奈奈がまだ答える前に、橋本絵里子は白目を向けた。自分がここに立っているのに、この男は橋本奈奈一人だけに「大丈夫か」と聞くなんて、どういうつもり?彼女は人間じゃないとでも言うの?

この男、見た目は悪くないけど、残念ながら目が見えていないようだ。

「大丈夫よ、帰って休んでください。私は大丈夫です」家で少し眠れたおかげで、今夜の当直は問題ないはずだ。

伊藤佳代がまだ現れていない理由について、橋本奈奈はもう気にしないことにした。

伊藤佳代は手足が健在だから、自分の面倒は見られる。橋本東祐のように、ベッドで動けない状態ではないのだから。

「わかった、明日また様子を見に来るよ」斎藤昇は頷きながら答えた。せっかく戻ってきたのだから、家に寄らないわけにはいかない。それに、ここは病院だ。斎藤昇は今、汗まみれの状態だから、長居するのは適切ではない。

斎藤昇が去った後、橋本絵里子は橋本奈奈に近づいた。「あの人、一体誰なの?」

「あなたには関係ないわ」

「どうして関係ないの?あなたと知り合いなんでしょう。今日会ったんだから、次に会ったときに、ただ『おい』とは呼べないでしょう?今日は助けてもらったんだから、お礼くらい言わないと」橋本絵里子は納得がいかなかった。以前は、誰に対しても橋本奈奈より自分の方が好かれていた。男の子たちだって、自分と一緒にいる方が好きだった。

今日のこの男は、目に橋本奈奈しか映っていなかった。まるで自分が透明人間みたいだった。

「好きに呼べばいいでしょう」橋本奈奈は橋本絵里子から一歩離れた。「今、お父さんはまだ目を覚ましていないの。静かにして、お父さんの邪魔をしないで。それに、お腹が空いているんでしょう?自分で家に帰って食べ物を作りなさい。あなたの世話をする暇はないわ」

「あなた...」橋本絵里子の顔が青ざめた。「帰ればいいでしょう!大したことないわ!」

橋本絵里子は疲れていて、お腹も空いていて、眠かった。さっきのショックで、さらに疲れが出た。

どうせ橋本奈奈がいるのだから、橋本絵里子が離れても問題ない。そこで橋本絵里子は本当に橋本家に帰り、橋本奈奈一人に橋本東祐の看病を任せた。