橋本奈奈がまだ答える前に、橋本絵里子は白目を向けた。自分がここに立っているのに、この男は橋本奈奈一人だけに「大丈夫か」と聞くなんて、どういうつもり?彼女は人間じゃないとでも言うの?
この男、見た目は悪くないけど、残念ながら目が見えていないようだ。
「大丈夫よ、帰って休んでください。私は大丈夫です」家で少し眠れたおかげで、今夜の当直は問題ないはずだ。
伊藤佳代がまだ現れていない理由について、橋本奈奈はもう気にしないことにした。
伊藤佳代は手足が健在だから、自分の面倒は見られる。橋本東祐のように、ベッドで動けない状態ではないのだから。
「わかった、明日また様子を見に来るよ」斎藤昇は頷きながら答えた。せっかく戻ってきたのだから、家に寄らないわけにはいかない。それに、ここは病院だ。斎藤昇は今、汗まみれの状態だから、長居するのは適切ではない。