第140章 痒み

「奈奈、あ、あの人がいるのに、どうして私に言わなかったの。こんにちは、私は奈奈の姉です」橋本絵里子は顔を赤らめながら、斎藤昇に挨拶をし、彼の自己紹介を期待していた。

「頭がおかしくなったの?」橋本奈奈は天を仰いで溜息をつき、手術室の入り口へと走り出した。

橋本絵里子はもう手の施しようがなかった。これ以上彼女と一緒にいたら、絵里子のせいで死んでしまうに違いない。

橋本奈奈が去ると、斎藤昇は振り返った。走ることはなかったが、彼の長い脚では、歩くだけでも他人が走らなければ追いつけないスピードだった。橋本絵里子のように。

斎藤昇はあと一歩で橋本奈奈の傍に着いた。「大丈夫、橋本おじさんは必ず大丈夫だから」

「そうよ、きっとそう。お父さんは絶対大丈夫」橋本奈奈は手術室を見つめながら、心の中で祈り続けた。