「うちの斎藤家はそんなに困っているわけじゃないから、これからはこの仕事を引き受けないで。その時間があるなら、ゆっくり休んだ方がいいわ」
斎藤花子はよく分かっていた。任務が下りれば、任務遂行中の軍人は人間ではなく機械となり、寒さや空腹に耐え、不眠も当たり前のことだった。
だから時間があるときは、斎藤花子は家に帰るとできるだけリラックスして、しっかり休んで体力と気力を養うようにしていた。
「安心して、分かってるわ」
「分かってるならいいわ。私は今日用事があるから、ちょっと出かけてくるわ」と言い終わると、斎藤花子はもう一杯魚のスープを飲んでから、部屋に戻って着替えて出かける準備をした。
「花子」斎藤花子が出かけようとしたとき、斎藤昇に呼び止められた。
斎藤花子は目を輝かせ、冗談めかして斎藤昇を見た。「どうしたの?バイバイって言って欲しいの?」
「花子、最近外出が多いね。それに新しい服も増えてる。いつからスカートを履くようになったんだ?」斎藤昇は目を細め、斎藤花子の膝下まであるスカートを見ながら、真剣に尋ねた。
「私は女なんだから、スカートを履くのは当たり前でしょ!」斎藤花子は顔を赤らめた。「時間がないの。もう口論してる暇はないわ。行くわよ!」
そう言うと、斎藤昇の反応も待たずに、斎藤花子は最速で斎藤家を後にした。
斎藤昇のバカ息子め、敏感すぎるんじゃないの!
「お父さん、スープどうぞ」一方、病院にいた橋本奈奈は魚のスープを注ぎ、少しずつ橋本東祐に飲ませた。
橋本奈奈がスープを注いだ瞬間、消毒薬の匂いが漂う病室は、たちまち魅惑的な魚のスープの香りに包まれた。
同室の患者は感嘆した。「兄貴、お嬢さんの腕前すごいね。このスープの香りがたまらないよ」彼は生まれてこのかた、こんなに香り高い魚のスープを嗅いだことがなかった。
魚のスープって、あっさりしていて味がないか、生臭いものじゃないのか?
「一杯どう?」橋本東祐は誇らしげに笑った。「うちの奈奈の作るものは、本当に美味しいんだ」
「いえいえ、お嬢さんがお父さんの為に特別に作ったものですから」同室の患者は笑いながら断り、橋本東祐のスープを遠慮した。