橋本奈奈は突然現れた斎藤昇に驚かされたが、斎藤昇は自分の台所に入るかのように、スープを飲み終わった茶碗を水に浸し、さっと洗い終え、橋本奈奈のために茶碗を片付けた。「斎藤お兄さん、何かご用ですか?聞かせてください」
「私のおじさんが年を取って、目があまり良くないんです。でも、彼が持っている原稿の翻訳を誰かにお願いしたいんです。手伝ってもらえませんか?もちろん、無償というわけではありません」
「報酬は要りません」斎藤昇の親戚と聞いて、橋本奈奈はすぐにお金を断った。「ただのお手伝いですから、私にその能力があれば、大きな問題はありません。でも...斎藤お兄さん、私の年齢をご存知でしょう。私はまだ高校に入学したばかりで、おじさんはそんな重要な仕事を私に任せて大丈夫なんでしょうか?」
十六歳のお嬢ちゃんに翻訳を依頼するなんて、この世でそんな無謀なことをする人は少ないだろう。結局、彼女は日系外国人でもないし、アメリカで育ったわけでもないのだから。
「緊張する必要はありません。このおじさんは元々誰かに頼むつもりでしたから、あなたでなくても他の人になるでしょう。このお金は誰かが受け取るわけですから、遠慮する必要はありません。あなたが受け取るべきものは、受け取ってください」斎藤昇は魚のスープの香りを嗅ぎながら、たった今一杯飲んだばかりなのに、また喉が渇いて少しお腹が空いてきたような気がした。
否定できないことだが、橋本奈奈は若いながらも、料理の腕前はなかなかのものだった。
橋本奈奈は少し躊躇した後、今は確かにお金が必要だと思い、うなずいた。「分かりました。もちろん、私の翻訳が良くなければ、斎藤お兄さんの顔に泥を塗ることになりますから、その時はお金は絶対に受け取りません」
どの国の言語でも、上達するには多くの方法はなく、ただ使い続けることだけだ。
橋本奈奈は「戻って」きて一年になるが、よく使うのは中学校レベルの英語知識だけで、この一年間で自分の英語力が落ちてしまったのではないかと心配していた。
「仕事をちゃんとこなせないのに、お金をもらおうなんて、この世にそんな都合の良い話はありません。考えすぎですよ」斎藤昇は淡々と橋本奈奈を見つめた。本当にそうなら、直接橋本奈奈にお金を渡した方がましだ。