伊藤佳代が自分の気に入った言葉だけを聞き入れ、相手の言葉の本当の意味を全く理解していない様子を見て、橋本東祐は初めて、かつてなぜ伊藤佳代という女性を良い人だと思い、妻にしようと考えたのか疑問に思った。「皆さんに笑われてしまいましたね」
「いいえ」
「そんなことありませんよ」手塚夫妻が同時に答えた。
伊藤佳代は口角を引きつらせた。どういう意味だ?
凛々しく、端正な顔立ちの手塚勇を見て、伊藤佳代の思考は再び手塚勇に戻った。「絵里子、この暑い日に、他のものは買いづらいから、果物でも買ってきたら?スイカとか」
伊藤佳代はポケットからお金を取り出し、橋本絵里子の手に押し込んだ。「店主さんに良いのを選んでもらってね」
「うん」橋本絵里子はお金を握りしめて嬉しそうだったが、スイカは大きくて重いことを考えると、一人で持ち帰るのは大変すぎる。「お母さん、奈奈と一緒に行ってもいい?スイカ重すぎて持てないの。奈奈は力持ちだから、一緒に行けば持つの手伝ってくれるでしょ」