第163章 差別待遇

伊藤佳代が自分の気に入った言葉だけを聞き入れ、相手の言葉の本当の意味を全く理解していない様子を見て、橋本東祐は初めて、かつてなぜ伊藤佳代という女性を良い人だと思い、妻にしようと考えたのか疑問に思った。「皆さんに笑われてしまいましたね」

「いいえ」

「そんなことありませんよ」手塚夫妻が同時に答えた。

伊藤佳代は口角を引きつらせた。どういう意味だ?

凛々しく、端正な顔立ちの手塚勇を見て、伊藤佳代の思考は再び手塚勇に戻った。「絵里子、この暑い日に、他のものは買いづらいから、果物でも買ってきたら?スイカとか」

伊藤佳代はポケットからお金を取り出し、橋本絵里子の手に押し込んだ。「店主さんに良いのを選んでもらってね」

「うん」橋本絵里子はお金を握りしめて嬉しそうだったが、スイカは大きくて重いことを考えると、一人で持ち帰るのは大変すぎる。「お母さん、奈奈と一緒に行ってもいい?スイカ重すぎて持てないの。奈奈は力持ちだから、一緒に行けば持つの手伝ってくれるでしょ」

「……」

「……」

「……」

橋本絵里子の言葉に、手塚家の三人は同じ表情を浮かべた。それは先ほど伊藤佳代の言葉を聞いたときと全く同じ表情だった。

手塚勇は眉をかすかにしかめた。誰の目にも明らかなように、姉は妹よりもずっとがっしりとした体格をしているのに、姉に力がなくて妹に力があるというのか?

この一年で橋本奈奈の食事は以前よりもずっと良くなったが、それでも彼女は生まれつき太りにくい体質で、どれだけ食べても今でも細身な体型のままだった。

一方、橋本絵里子は伊藤佳代に似て、たくさん食べると太りやすいため、食事を制限しなければならなかった。

橋本奈奈と比べると、橋本絵里子は太っているとは言えないまでも、むっちりとした体型と表現できた。

「バカなことを言わないの。あなたと奈奈の仲が良くて、奈奈と一緒に行きたいのはわかるけど、奈奈はあなたの妹よ。どうして妹の方が力が強いわけがないでしょう」伊藤佳代は橋本絵里子の言葉の不適切さに気付いたが、最も重要なのは、そうすることで次の言葉を言えることだった。「手塚勇くん、うちの絵里子とスイカを買いに行ってあげてくれない?」

スイカを持ち運ぶという仕事なら、病室にいる七人の中で、手塚勇以上に適任な人はいなかった。