特に彼女は橋本東祐が入院した初日、伊藤佳代が事情も分からずに橋本奈奈の顔を平手打ちし、橋本奈奈が出血するまで叩いたと聞いて、手塚お姉さんはようやく、あんなに素直なお嬢ちゃんが、なぜお母さんに会うと基本的な笑顔さえ見せないのか理解できた。
夫が事故に遭うと、伊藤佳代は地面に座って太ももを叩きながら、お金がないと泣き叫び、結局はお金は末っ子が工面することになった。
本当に、奈奈という子があまりにも良い子でなければ、伊藤佳代のこの性格では、こんな親戚は望めなかったはずだ!
「手塚お兄さん、あなたの息子さんは軍人なんですね」伊藤佳代はこの時笑顔を見せ、とても明るく笑い、かつてない良い口調で、手塚剛と手塚お姉さんが鳥肌が立つほど、今日の伊藤佳代は何かに取り憑かれたのかと心の中で叫んでいた。
普段会えば、お兄さんやお姉さんどころか、いつも不機嫌な顔をして、まるで彼らが彼女にお金を借りているかのようだったのに、今日はどうして急に口が甘くなったのだろう。
「ええ、軍人です」手塚剛は居心地が悪そうで、伊藤佳代と関わりたくなく、手塚お姉さんに目配せをして、妻に伊藤佳代の相手をさせた。
「見たところ、もう軍曹になっているようですね。この子は何歳ですか?」伊藤佳代の目は鋭く、聞く必要もなく、手塚勇を上から下まで見ただけで、手塚勇の部隊での地位が分かった。
手塚勇は今日急いで来たため、父親が入院したという知らせを受けるや否や、すぐに駆けつけ、軍服も着替えていなかった。
伊藤佳代も軍人の妻だったし、それに橋本東祐も軍曹だったので、手塚勇のその姿を見て、伊藤佳代が分からないはずがなかった。
「……」
「……」
手塚勇の出現により、伊藤佳代の手塚家夫婦に対する態度が前後で極端に違うことに、橋本東祐と橋本奈奈は顔を曇らせ、怒りで言葉も出なかった。
長年同じ釜の飯を食べてきた仲で、伊藤佳代のこの様子が何を意味するのか、橋本東祐と橋本奈奈が分からないはずがなかった。
橋本奈奈は伊藤佳代の産んだ子とはいえ、上から下まで、内から外まで、伊藤佳代に似ているのは一つだけ、それは軍人が好きで、兵士が好きということだった。
そうでなければ、当時伊藤佳代が身寄りのない橋本東祐と、あんなにすんなりと結婚するはずがなかった。