「奈奈?」橋本東祐は少し驚いた。先日、手塚お兄さんは奈奈を息子の嫁にしたがっていたのに、今日の奈奈は手塚お兄さんの息子を知っているような様子だった。もしかして……
「この前は本当にありがとうございました」奈奈は気まずそうに笑った。実は目の前の男性の名前も知らなかった。ただ軍人だということだけは分かっていた。
「あ、君か?」手塚勇は顔を赤らめた。さっきまで気勢を上げていたのに、急に緊張して、手も足もどこに置いていいか分からなくなった。「ああ、思い出した。確か家族が病気で、この病院に入院してるんだよね」
「はい」橋本奈奈は頷いて、バッグを下ろし、今日のスッポンスープを注いで橋本東祐の前に置いた。「父が入院しているんです」
「あ、お、おじさん、こんにちは」手塚勇は橋本東祐が誰だか分かると、すぐに90度の深々とお辞儀をした。