橋本絵里子の言葉を聞いて、橋本奈奈は「ふふふ」と冷笑いをして、自分の部屋に戻った。
昨夜の橋本奈奈の態度に橋本絵里子が怯えたのか、橋本絵里子は橋本奈奈に誰もいない時に殴られると思ったのだろう。そのため、朝早くから橋本東祐のお見舞いに病院へ行き、逆に橋本奈奈を落ち着かせることになった。
橋本奈奈は昨日斎藤昇が自分に言った言葉を忘れていなかった。爽やかな色の服を選び、アイロンをかけて着て、斎藤家へ斎藤昇を訪ねようと思った。
ところが、橋本奈奈がドアを開けると、斎藤昇の車がすでに橋本家の近くに停まっていた。
橋本奈奈は何故か少し気後れして、周りを見回して誰もいないことを確認してから、その車に向かって歩き、最速でその車に乗り込んだ。「斎藤お兄さん」
「シートベルトを締めて」
「はい」
橋本奈奈が座り、シートベルトを締めると、斎藤昇はアクセルを踏み、車は敷地を出た。
敷地内の人々は、たまたま斎藤昇の車が出て行くのを見かけ、不思議そうに言った。「斎藤昇がなぜまだ敷地内にいるんだろう。橋本家の末っ子も車に乗っていたような気がするけど。見間違いかな。橋本家の末っ子が斎藤家の人と関係を持つはずがないよね」
「斎藤お兄さん、どこに連れて行くの?誰に会わせるの?」車の中で、静寂な空気に慣れない橋本奈奈は、黙っている斎藤昇に話しかけてみた。
「着いたら分かるよ」斎藤昇は詳しい説明をせず、ただ目的地に向かって運転を続けた。
斎藤昇が運転していたため、橋本奈奈は全く自分がどこに行くのか分からず、道も全く覚えていなかった。
「人がたくさんいるね」しばらく走った後、斎藤昇の車が突然停まり、橋本奈奈が目を上げると、前の道が完全に人で塞がれているのが分かった。
「……」斎藤昇はこうなることを予想していたが、こんな早朝からこんなに多くの人が集まっているとは思わなかった。
斎藤昇はバックギアを入れた。正門はすでに人で塞がれていたので、林家の裏門から入るしかなかった。
林家の裏門は、知る人ぞ知る場所で、あるいは林家と関係の良くない人は、その存在すら知らないと言えるだろう。
おそらくこのような状況に慣れているのだろう、林家の裏門は正門よりも大きく作られており、逆に正門が裏門のように見えた。
「私です」門に着くと、斎藤昇は窓を開けて一言言った。