第166章 言葉を無駄にせず直接手を出す

話の途中で、橋本奈奈はいつもクールで凛々しい斎藤昇が今日は少し違うことに気づいた。未来の司令官が、今や両手に重たそうな果物を提げているではないか。

「……」斎藤昇は顔に恥ずかしさを浮かべ、咳払いをしてから言った。「姉が帰ってきたんだ。これは彼女のために買ったものだ」

「斎藤さんが帰ってきたんですね。じゃあ斎藤お兄さんはお家で寂しくなくなりますね。斎藤さんがお料理も作ってくれるでしょう」橋本奈奈は嬉しそうだった。一人で家にいるのは寂しいものだし、考えただけでも寒々しい感じがする。

「料理はできない」斎藤昇は橋本奈奈を見つめた。「俺の料理を作るのが面倒になったのか?」

「いいえ、そんなことありません!斎藤さんができないなら、大丈夫です。斎藤お兄さん、これからも食材を持ってきてください。私が作ります。結局、私たち家族が斎藤お兄さんに甘えているんですから」斎藤お兄さんが毎回持ってくる食材は良いものばかりで、今日のスッポンのように。

この時代はまだスッポンを食べる習慣が一般的ではなかったが、橋本奈奈はその良さを知っていた。

実は橋本奈奈も気づいていた。斎藤昇が毎回持ってくるものは、橋本東祐の体力回復に特に適したものばかりだということに。

だから、橋本奈奈は斎藤昇が意図的に自分を助けているのではないかと疑っていた。

「分かっていればいい」斎藤昇の瞳が光った。彼は橋本家に恩を売るつもりはなく、ただ橋本奈奈一人に恩を売りたかっただけだ。

大院に戻ると、斎藤昇と橋本奈奈は別れ、一人は斎藤家へ、もう一人は橋本家へと帰った。

斎藤昇が家に帰り、両手の果物を地面に置くと、ちょうど家にいた斎藤花子がそれを見て叫んだ。「昇、頭がおかしくなったの?病人のところに果物を持って行くって言ってたじゃない。なんで両手に果物を持って出かけて、また持って帰ってきたの?」

まさか弟が筋トレでもしているのか?

冗談じゃない!

斎藤花子は本当に余計なことを言う。

この姉に対して、斎藤昇はいつもの良い性格と忍耐力を失っていた。「考え直したら、やっぱり家に置いて姉さんに食べてもらった方がいいと思って」