斎藤昇は部隊にいた時、笑わない性格だったが、斎藤が少しでも表情を見せると、特に笑顔を見せる時は、誰かが大変な目に遭う時だったので、部下たちの間でそんなあだ名が付いていた。
今日のような怒りを露わにする表情は、手塚勇が斎藤に付き従って何年も経つが、初めて見たので、手塚は自分の目を疑った。
「手塚?」手塚からの返事が遅いので、斎藤は眉をひそめ、厳しい目つきで見た。
「はい、団長!」手塚は両足をそろえ、姿勢を正し、手を耳の横に上げて、斎藤に完璧な敬礼をした。
「いいから、スイカを持って戻りなさい。」
「はい、団長。」斎藤の命令に、手塚はすぐに動いた。
手塚は一連の動作で180度回転し、手を腰に当て、スタートの姿勢を取り、病院に向かって小走りで去って行った。橋本奈奈はその様子を呆然と見ていた。