橋本奈奈は天から降ってきた餡饅のような話を信じていなかった。たとえ橋本絵里子が実の姉だとしても、彼女からもらったものは天から降ってきた餡饅よりも罠のように思えた。
「ただの饅頭じゃない?お父さん、奈奈に大げさに言いすぎよ」橋本絵里子は目を輝かせながら、ほとんど本性を表しそうになった。
実際、橋本東祐と橋本奈奈に饅頭を奢ることは、橋本絵里子が思いつく最後の手段だった。
当初の計画では、橋本絵里子は橋本東祐をもっと遠くまで連れて行き、それから橋本奈奈を呼び出すつもりだった。そうすれば伊藤佳代のために時間を稼げて、事態が早くばれるのを防げたはずだった。
橋本絵里子が橋本東祐を散歩に連れ出すのは嘘だったが、橋本東祐の怪我は本物だった。
そのため、あまり歩けず、橋本東祐はすぐに疲れてしまった。
橋本絵里子は橋本東祐を支えて歩かせたかったが、支えきれなかった。仕方なく、橋本絵里子は橋本東祐が座り込んで動かなくなるのを見守るしかなかった。
「いいよ、じゃあ奈奈と一緒にお前の買ってくる饅頭を待っているよ」橋本東祐は笑った。父親として、長女が根っからの悪人ではなく、ただ夫婦二人に甘やかされて育ってしまっただけだと信じたかった。
子供は必ず成長する、成長すれば分別も付くはずだ。
橋本絵里子が本当に饅頭を買いに走っていくのを見て、橋本東祐は安心して微笑んだ。「お姉ちゃんは随分分別が付いてきたみたいだね」
「そうですか?」橋本奈奈は眉をひそめた。おかしい、とても不自然だ。橋本絵里子が自分を毒殺しようとして饅頭を買ってくるのなら信じられても、橋本絵里子が人としての道理を理解したとは信じられなかった。
「お父さん、お姉ちゃんが転んだって言ってたけど、どこを転んだの?痛くない?怪我は大丈夫?」本題を思い出し、橋本奈奈は橋本東祐を上から下まで観察したが、転んだ跡は見当たらなかった。
「転んだ?私は転んでないよ」橋本東祐は一瞬戸惑った。「絵里子がお前に、私が転んだと言ったのか?」
「はい、お姉ちゃんが言うには、お父さんが転んで、一人じゃ支えきれないから、私を呼びに来たって」
「私は転んでないよ」橋本東祐には理解できなかった。確かに転んでいないのに、なぜ絵里子は奈奈にそう言って呼び出したのだろう?