だから橋本奈奈が帰っても、大して意味はないだろう。あのお金は逃げられない。
でも、お父さんが帰ったら話は別だ。お父さんが帰ったら、お母さんがまだ手に入れていなければ、そのお金は絶対に手に入らなくなる。
「帰らない。私を家まで送って!」
「私は帰らないわ。帰りたければ自分で帰ればいいでしょう。私は、私はもう少し歩きたいの!」橋本絵里子は駄々をこね始め、どうしても橋本東祐を支えようとしなかった。
橋本東祐は怒りで顔が青ざめた。彼は今日の絵里子が本当に自分のことを心配してくれているのだと思っていた。この子はそれほど薄情ではなく、やはり親のことを思う心があるのだと。今になってみれば、それは彼の思い上がりだったようだ。
橋本奈奈が以前聞いた質問を思い出し、橋本東祐は深いため息をつくと、目を暗くして冷たく尋ねた。「今日、わざわざ私を外に連れ出して散歩に付き合ったのは、奈奈を家から誘い出すためだったのか?お前とお母さんは何をしようとしているんだ?」
転んだこと。長女は彼が転んだという嘘で奈奈を誘い出したのだろう?
長女が今日自分に示した心配が全て嘘で、それどころか次女の自分への思いやりを利用して彼女を家から誘い出し、妻と何か悪だくみをしているのだと思うと、橋本東祐は心臓が爆発しそうなほど怒りを覚えた。
橋本東祐は、橋本奈奈の前で橋本絵里子のいいところを話した時の奈奈の表情がどれほど辛そうだったかを思い出し、橋本絵里子を平手打ちにしたくなるほど怒った。「帰らないというのか。お前の手は借りない、自分で歩いて帰る!這ってでも、自分で帰ってやる!」
橋本東祐の一つ前の質問に、橋本絵里子は答えられなかった。
橋本東祐がこれほど帰ろうとするのを見て、橋本絵里子は怖くなって、どうしたらいいかわからなくなり、目の前の状況に全く対応できなくなった。
橋本東祐は言ったとおりにし、橋本絵里子が支えに来るのを待たずに、一歩一歩家に向かって歩き始め、できる限り早い速度で家に向かった。
橋本絵里子は橋本東祐が早く帰りすぎて、伊藤佳代の「いいこと」を台無しにしてしまうのではないかと恐れ、おずおずと橋本東祐の後ろをついていくだけで、橋本東祐がどんなに苦しそうに歩き、額に冷や汗を浮かべていても、一歩も前に出て支えようとはしなかった。