林康弘は岡本茜の可愛らしい顔が歪むのを見ながら、まるで何も気付かないかのように談笑を続けていた。
「林おじいさん、もう遅くなってきましたので、私はこれで帰らせていただきます。また改めて伺わせていただきます」岡本茜は歯を食いしばった。林康弘が彼女を受け入れてくれないなら、しつこく粘る必要はない。林康弘は確かに凄い人物だが、日本には林康弘だけではない。師匠を見つけることはそれほど難しくないはずだ!
「ああ、また遊びに来なさい」岡本茜の目に宿る不甘、怒り、屈辱を見逃さなかった林康弘は、慈愛に満ちた様子で手を振り、ゆっくり帰るように促した。
「林おじいさん、さようなら。斎藤お兄さん、時間があったら私の家に遊びに来てください。それとも、お兄さんに会いに行くときに、斎藤お兄さんにも会いに行ってもいいですか?」林康弘のところは諦めたものの、岡本茜は斎藤昇の存在を忘れてはいなかった。
斎藤昇は眉をひそめた。「部隊は誰でも自由に出入りできる場所じゃない。私は見知らぬ人に邪魔されるのは好きじゃない」
「……」先ほど斎藤昇は岡本茜が誰なのかと尋ね、今度は見知らぬ人に邪魔されたくないと言う。この二つの言葉で岡本茜は立場がなくなった。元々厚かましい性格ではない彼女は、斎藤昇に二度も刺されて、顔を赤らめ、目に涙を浮かべ、その場で泣き出しそうになった。
岡本茜は唇を強く噛んで、目に溜まった涙をこらえた。「木下おじいさん、私は帰ります」そう言うと、岡本茜は最速で身を翻して立ち去った。
「ツツツ、またお嬢ちゃんを泣かせちゃったね」林康弘は芝居でも見るかのように言った。
「また?」橋本奈奈は目を丸くした。つまり、以前も斎藤お兄さんは人を泣かせたことがあるということ?
「でも、弟子を取るってどういうことですか?」いつの間に自分はこの頼りないおじいさんの弟子になったの?自分でも知らないうちに。
「林先生、奈奈はまだ幼いです」橋本奈奈の質問には答えず、斎藤昇は保護者然として林康弘と話を始めた。
「分かっています」林康弘は頷いた。岡本家のお嬢ちゃんの反応を見れば、この新しい弟子の存在が広まれば、どんな妨害に遭うか分かっていた。
林康弘が橋本奈奈を弟子にしようと思ったのは、斎藤昇の面子を立てるためではなく、才能を惜しんでのことだった。