斎藤お兄さんの一言で、橋本奈奈はすぐにいい子に変身し、斎藤お兄さんの指示一つ一つに従い、岡本茜の前で見せていたお姉さんのような威厳や気迫は微塵も感じられなくなった。
先ほどの二人の会話を、斎藤昇は一部聞いていた。
橋本奈奈のこの変化に対して、斎藤昇は嫌悪感を覚えるどころか、むしろ奈奈への思いがさらに深まったように感じた。
心配すれば混乱するというが、奈奈は岡本茜に対しては威圧的な態度で圧倒していたのに、彼に対してはいつもおっちょこちょいな様子を見せる。それは、彼が奈奈の心の中で本当に大切な人だからに違いない。
この発見により、斎藤昇の心は小さな翼が生えたかのように、舞い上がった。
座ってから、橋本奈奈はようやく我に返って説明した。「斎藤お兄さん、さっき岡本茜が言ったことは全部嘘です。私はそんなこと言っていません。誤解しないでください。あれは全部岡本茜の作り話です!」
口角が少し上がり、機嫌の良かった斎藤昇は一瞬にして顔を曇らせ、口角を下げ、ブレーキを踏んで車を路肩に停め、暗い瞳を橋本奈奈に向けた。「何だって?」
「……」橋本奈奈は一瞬戸惑い、言葉を選びながら言った。「さっきの話は、全部岡本茜の作り話です。私が彼女と話した内容は、全然そんなものではありません。」
斎藤お兄さんが、どうやら、怒っているみたい。
でも、なぜ?!
斎藤昇は黙ったまま橋本奈奈を見つめ続けた。最初は橋本奈奈も斎藤昇と視線を合わせていられたが、斎藤昇の目の中の温度が徐々に上がってくるにつれ、耐えられなくなり、落ち着かない様子で姿勢を正した。「斎藤お兄さん、私たち、帰らないんですか?」
斎藤昇は唇を噛み、右手でシートベルトのところを押すと、「カチッ」という音とともにシートベルトが外れた。
橋本奈奈は首をすくめた。斎藤お兄さんは何をするつもり?
橋本奈奈が緊張で仕方がないときに、斎藤昇は手を伸ばし、橋本奈奈の頭を撫でた。手のひらの下の髪は柔らかく細く、手触りが極上だった。心のままに、また軽い懲らしめとして、斎藤昇は橋本奈奈の頭を何度も撫で回し、橋本奈奈をふらふらにさせ、何も見えなくなるほどにした。
「斎藤お兄さん、何するんですか!」橋本奈奈は怒って叫んだ。先ほどまで誰かさんが、イメージを保つようにと何度も念を押していたというのに。