第198話 服が盗まれた

伊藤佳代は怒りを抑えきれないものの、声に出すことはできず、我慢しながら橋本奈奈と「うまく」話すしかなかった。

橋本東祐はコップを置き、表情を引き締めて言った。「絵里子、お母さんの言い方は適切だと思うか?」

「……」橋本絵里子は唇を噛み締め、この質問に答えたくない様子だった。

「黙っているということは、お前も適切ではないと思っているということだな。よし、この件はここまでだ。」橋本東祐は無理して立ち上がり、「奈奈、部屋まで付き添ってくれ。みんなも早く寝なさい。」

「はい、お父さん。」橋本奈奈は橋本東祐を支え、部屋まで送った。

橋本東祐はベッドに座ると、ため息をつきながら言った。「奈奈、父さんは長年生きてきたが、お前の方が人付き合いが上手いようだ。お前の姉さんへの態度は、父さんより良い。これからは自分の性格のままでいいよ。父さんはお前を信じている。」

橋本奈奈は頷いた。「分かりました、お父さん。」

「奈奈……」橋本奈奈が橋本東祐の部屋を出たところで、橋本絵里子に待ち伏せされた。「奈奈、今日は私の実力を十分に発揮できなかったの。もう一度チャンスをくれない?」

橋本奈奈はドア枠に寄りかかり、橋本絵里子がこれで諦めるはずがないと分かっていた。お金の話になると、橋本絵里子の執着心は誰にも負けない。「本当にこの仕事を引き受けたいの?もう一度試してみたい?」

「そう!」とにかく、まずは仕事のチャンスを手に入れなければならない。その後で、仕事はせずにお金だけもらう方法を考えればいい。

橋本奈奈は冷笑した。「いいわ。でも最初に言っておくけど、私が翻訳を直すことはもうないわ。社長に家の事情を説明して、私の仕事量の一部をあなたに分けるだけ。翻訳した分だけお金がもらえる。もちろん、翻訳が通るかどうかは私じゃなくて、社長が決めることよ。だってお金を払うのは社長であって、私じゃないもの。」

橋本絵里子の顔が青ざめた。本当に橋本奈奈の言う通りにすれば、自分の実力では二円も稼げないだろう。最も重要なのは、そうなれば本気で翻訳に取り組まなければならないということだ。

先ほどの一時間以上、じっと座って辞書を引き、結局出来上がったのは意味の通らない、お金にもならないゴミのような翻訳だったことを思い出すと、橋本絵里子はすっかりやる気を失った。