橋本奈奈と橋本東祐が親密に寄り添い、父子の情愛を見せる中、自分は余計者のように脇に座って二人の背景にしかなれない橋本絵里子は、笑顔を保つのがやっとで、その場で崩れそうになった。
「お父さん、奈奈と話したいことがたくさんあるでしょう。私はお母さんのところに行ってくるわ」一年前、高校生の時は、お父さんがこんなに自分のことを心配してくれなかった。学校でいじめられていないか、楽しく過ごせているかなんて聞いてくれなかった。
お父さんの偏愛はひどすぎる!
橋本絵里子が伊藤佳代を探しに行くと言っても、橋本東祐と橋本奈奈は特に反応を示さず、そのまま会話を続けた。
橋本絵里子は立ち上がり、伊藤佳代の部屋の前で足を止め、不満げに振り返って橋本東祐を見た。橋本東祐が橋本奈奈と楽しそうに話し、自分のことなど全く気にかけていない様子を見て、橋本絵里子は歯ぎしりするほど腹が立った。
お父さんの心の中に橋本奈奈しかいないのなら、将来お父さんが年を取っても、私からは一銭も出さない。面倒を見るとしても、お母さんだけよ。
数年後、私がお母さんに良い暮らしをさせられるのか、それとも橋本奈奈がお父さんに良い暮らしをさせられるのか、見ものね!
橋本奈奈のことだけど、調子に乗るのもほどほどにしなさい。すぐに、あなたに思い知らせてやるわ!
橋本絵里子が本当に伊藤佳代の部屋に入り、そっとドアを閉めるまで、橋本東祐と橋本奈奈の固まっていた背中がようやくほぐれた。
橋本東祐が自分と同じ反応をしているのを見て、橋本奈奈は少し驚いた。考えてから橋本奈奈は言った:「お父さん、実は姉さんのことをあまり分かってないと思う。姉さんは結構小心者で、言いにくいけど、恨みを持つタイプで、目には目をって感じの人なの。さっきのお父さんの態度、姉さんは絶対心に留めているわ。これから…」
前世では、両親の心の中には橋本絵里子しかいなかったのに、橋本絵里子がお父さんに特別良くしていたわけでもない。
今世では、お父さんの橋本絵里子に対する態度がこれほど大きく変わったのだから、橋本絵里子はお父さんを恨むことになるだろうと考えていた。