第237章 橋本奈奈の絶望

「そうだ、鍵だ、鍵!私ったら忘れてた!」事態が失敗に終わりそうになって、伊藤佳代は自分の太ももを叩き、それから勢いよく橋本奈奈に向かって突進した。「鍵を出しなさい!」

先ほどは人違いをしていたので、白洲恵美子が持っていた鍵で斎藤家の裏門が開かなかったのは当然だった。でも今、橋本奈奈が出てきた以上、彼女が持っている鍵は間違いないはずだ。彼女は確信していた。橋本奈奈が行ったのは斎藤家で、持っているのは斎藤家の鍵に違いない。

「ちょっと、何するの?人を疑って、今度は喧嘩するつもり?」白洲恵美子は様子がおかしいと感じ、橋本奈奈の前に立ちはだかった。

橋本奈奈は従兄から守るように言われた人だ。もし彼女の目の前で誰かに虐められたら、白洲恵美子の顔が立たない。

「あなたには関係ないでしょ!」橋本絵里子は白洲恵美子を抱きとめた。伊藤佳代が橋本奈奈の身体を探るのを邪魔されたくなかったからだ。

白洲恵美子は白洲隆の従妹だ。白洲隆の性格と、白洲恵美子のさっきの態度を見れば、彼女が温和しい女の子だなんて誰が信じるだろうか?

白洲恵美子は冷笑し、力強く橋本絵里子の腕をねじり返し、背負い投げで地面に叩きつけた。橋本絵里子はクラクラしていた。

しかし白洲恵美子がどんなに素早くても、橋本奈奈を害しようとする伊藤佳代には及ばなかった。伊藤佳代は橋本奈奈の手を掴み、手を探るだけでなく、その強い力で服まで破りそうだった。

夏服は薄い。たった一枚で、物を入れられるポケットもほんの数個しかない。

伊藤佳代が探る必要もなく、橋本奈奈を激しく揺さぶっただけで、「がちゃん」という音とともに、真鍮の鍵が一つ落ちた。

伊藤佳代は橋本奈奈を突き放し、電球のように目を輝かせながら、地面から鍵を拾い上げた。「ほら見てください。私が言った通りでしょう。この悪い娘は素直じゃない、手癖が悪いんです。斎藤家の鍵を盗んで、斎藤家から逃げ出したんです。司令官夫人、私を信じてください。あなたのお宅できっとお金か何かがなくなっているはずです。私は彼女の母親です。こんな嘘をつく必要がありますか?私には何の得もないんですから。」

傍観者を困惑させたのは、もし橋本奈奈が本当に泥棒なら、伊藤佳代に何の得があるのか?なぜ橋本奈奈から突然泥棒の証拠となりそうな鍵が出てきた時、伊藤佳代はこんなにも喜んでいるのか?