第232章 物が盗まれていない

「お母さん、泣かないで、そんなことしないで。奈奈はきっと一時的に考え違いをして、間違いを犯しただけだと思います。私たちがちゃんと教えれば、奈奈はきっと良くなります。私は前から不思議に思っていました。奈奈のような子供が、どうして二十円も持っているのかと。まさか奈奈が...私が姉として悪かったんです。奈奈がこんなに変わってしまったのに、私は気づきませんでした。もっと奈奈のことを気にかけるべきでした。私がもっと奈奈のことを考えていれば、奈奈も間違った道に進むことはなかったはず、こんな恥ずかしいことをすることもなかったはず。お母さん、私が悪いんです。奈奈だけを責めないでください。責めるなら私を責めてください。私が姉としての責任を果たせなかったんです。奈奈、安心して。どんなことがあっても、私が一緒に背負います。本当に斎藤家に謝りに行くなら、私が付き添います。もし斎藤家が許してくれなくて、刑務所に入れられることになっても、私、私も一緒に入ります!」

「まさか、橋本家の長女がこんなにいい子だったなんて?」

「そうですね。間違いを犯したのは妹なのに、姉が一緒に刑務所に入ろうとするなんて。姉としてここまでするなんて、すごいものです」

「でも、泥棒をしたのは橋本奈奈なのに、本当に橋本絵里子が一緒に刑務所に入れるわけないでしょう。国にそんな規則があって、許可されるんですか?」

「バカな話です。もちろん許可されませんよ。やった人が責任を取るんです」

一瞬にして、橋本奈奈の優秀な成績を持ついい子のイメージは崩壊し、代わりに橋本絵里子が間違いを犯した妹を見捨てない美談となった。

先日、橋本家が警察に通報し、伊藤佳代という母親が恥知らずにも橋本奈奈のお金を取ったという醜聞も、橋本奈奈が他人の家のお金を盗んだことに変わり、伊藤佳代はただ疑いを持って、真相を明らかにしようとしてお金を取ったのだと。まさに母親の愛情深い心遣いだったというわけだ。

腹立たしいことに、橋本奈奈は泥棒が泥棒を捕まえろと叫び、自分が盗んだお金がなくなったと警察に通報するなんて。熊の心と豹の胆を食べたのか、それとも橋本奈奈の邪心が天も地も恐れないほどになってしまったのか?

団地の人々を驚かせ、恐れさせたのは、橋本奈奈が本当に死に物狂いだということだ。どこの家のお金を盗むでもなく、斎藤家のお金を盗むなんて。