白洲隆は不機嫌になり、眉をひそめ、テーブルを強く叩いた。白洲家の魔王の気性が一瞬にして現れた。
「慌てないで。河野雲見の言いたいことは、あの泥棒は頭がおかしいのかってことよ」鈴木香織は眼鏡を直しながら言った。「私たちは学生で、高校生とはいえ、はっきり言って、誰がたくさんのお金を持ち歩くっていうの?本当にお金持ちなら、私たちみたいな立場の人間なわけない。途中で止められて脅されたって話は聞いたことあるけど。奈奈みたいに直接カバンを奪われて、しかも学生カバンなんて、聞いたことないわ」
「奈奈さん、どうやってカバンを取り返したの?」白洲隆は薄い唇を引き締め、表情を厳しくした。
鈴木香織の言葉には、一理あった。
「見知らぬ人が助けてくれたの」橋本奈奈の顔に冷たい色が浮かび、田中勇の名前を口にするのも嫌だった。