白井照子は好奇心に駆られて紙くずを拾い上げ、広げてみると、力強い男性の文字が目に飛び込んできた。
内容はとてもシンプルで、ある大学の住所と、学部と学年が書かれていた。
これは先輩の連絡先なのかしら?
でも、誰が渡してくれたのだろう?
白井照子は赤い唇を固く結び、先輩からのものではないはずだと考えた。もし先輩からのものなら、今になって見つけるはずがない。つまり、教室の誰かが渡してくれたということ?
紙くずの文字は四角く力強く、明らかに男子の字だった。女子の字ではありえない。白井照子は直感的に、この紙くずの文字は間違いなく田中勇が書いたものだと思った。
「……」白井照子は歯ぎしりをしながら橋本奈奈の方を見たが、橋本奈奈は頭を下げて真剣に本を読んでおり、まったく自分を見ていなかった。
橋本奈奈から反応が得られず、白井照子は口角を一文字に引き締め、黙って紙くずを隠した。
誰が渡してくれたにせよ、渡されたからには自分のものだ!
「奈奈さん、さっき照子に投げたのは何?」白井照子が橋本奈奈を見なくなったのを確認してから、白洲隆は橋本奈奈の服を引っ張った。
「照子が一番欲しがっていたもの」橋本奈奈は本のページをめくった。
「彼女が一番欲しがっていたもの?何のこと?」
「さっき彼女が田中勇を追いかけていたのは何のため?」重要な箇所を見つけ、橋本奈奈は一心二用で要点をマークしながら記録した。
「あいつの連絡先?待てよ、さっきの男、田中勇っていうのか。どうしてそれを知ってるんだ?!」白洲隆は眉をひそめて言った。「奈奈さん、言っておくけど、君はまだ若いんだ。今一番大事なのは勉強をして、いい大学に入ることだよ。そうすれば、あの偏った考えのお母さんに見せつけることができる。誰が本当に優秀なのかってね。これまでずっと頑張ってきて、たくさんの苦労をしてきたのに、今、一人の男のために全てを投げ出すなんて、それって価値があるのかい?もし本当に誰かを見つけるなら、少なくとも俺より...」
白洲隆は、橋本奈奈が恋愛をするなら、少なくとも自分より優れた男性を見つけるべきだと言いたかった。