田中勇は橋本奈奈が書いた紙切れを指先で軽くはじいた。「奈奈、これは結局、年が若すぎて分かっていないのか、それとも私に対して駆け引きをしているのか?どちらにしても、奈奈、おめでとう。君たち二人の間のゲームは、本当に終わらないようだね」
「田中君、電話だよ」寮監の先生が階下で声を張り上げて呼んだ。
「はい」田中勇は返事をし、全ての手紙を自分のロッカーに鍵をかけて収納し、階下に駆け下りた。「ありがとうございます」
「どういたしまして」寮監の先生は嬉しそうに答えた。田中勇のような成績優秀で礼儀正しく、寮の部屋も整理整頓が行き届いている学生を、寮監の先生が好ましく思うのは当然だった。
「もしもし、はい、私です。ご安心ください。そのプロジェクトのことは、もちろん忘れていません。ずっと進めています。でも、焦っても良い結果は出ません。一歩一歩着実に進める方が良いと思います」