人の噂なんて怖くないが、戸川先生のような、クラスで決定的な影響力を持つ人が、突然頭がおかしくなったら、それこそ命取りだ。
戸川先生の言葉はクラスの生徒たちに大きな影響を与えていた。橋本奈奈と同じ寮室の生徒以外は、やっと橋本奈奈に対する態度が変わってきたのに、ここ数日また気まずい雰囲気になってきた。
学業成績がよくても意味がない、人としての善さが大切なのだ。
自分の品性や道徳がどうであれ、この世には狂信者が絶えることはなく、他人に厳しく自分に甘い人は至る所にいる。
みんなの橋本奈奈を見る目が和らいできた時、唯二人だけが例外だった。それは白井照子と井上雨子だった。
白井照子と井上雨子は暗黙の了解で視線を交わした。せっかく橋本奈奈のクラスでのイメージを崩すことができたのに、戸川先生の数言で、これまでの努力が全て水の泡になってしまった。
橋本奈奈の弱みを握って、彼女を潰すのは簡単ではない。こんな良い機会を逃してしまうのは、本当に惜しい!
授業が終わると、戸川先生は橋本奈奈のそばに来て、親切に数言声をかけてから去っていった。
先生の態度、特に担任の態度は、クラスの風向きを決めるものだった。戸川先生がこのような態度を取れば取るほど、橋本奈奈に関する悪い噂の影響は急激に減っていった。
「!」井上雨子は机を叩いて怒った。以前中学校の時は、橋本奈奈には田中先生が守ってくれ、今度は木下先生が彼女を守っている。世の中の良いことが全て橋本奈奈一人に降りかかるのが理解できなかった。
もし二代続けて担任が橋本奈奈を守ってくれなかったら、彼女をこらしめるのは全然難しいことではなかったのに。
橋本奈奈は優等生だけど、自分だって優等生なのに、どうしてどの先生も彼女にそんなに優しくしてくれないの!!!
「戸川先生、あなたが教えているのは確かに我が校最高の1組ですね。本当に賑やかで、次から次へと事件が起きていますが、お祝いを言うべきでしょうか?」同僚の先生が酸っぱい口調で、まるで面白がるように言った。
今年の高校1年1組を誰が担任するかについて、学校で議論されたことがあった。この先生は自分が適任だと確信していたし、今年の中学校の一位が必ず平泉高校に入学するという噂も聞いていた。間違いなく1組の生徒になるはずだった。
しかし、最後に戸川先生に横取りされてしまった。